世界的な人気を誇る和食と言えば寿司。その寿司にかかせないのが『わさび』です。
海外からの観光客の増えてきた東京でも、人気寿司チェーン店で上手に箸を使ってわさびを醤油に溶いている方をよく見かけます。
他にもせいろう蕎麦には必ずわさびが添えられてきます。寿司や蕎麦にわさびは無くてはならないものですね。
そこで今回は、スパイスびとでは初めて東洋のスパイス『わさび』を紹介したいと思います。
1.わさびの名前と歴史
わさびは山深くの清流に自生し、古くから薬草として用いられていたようです。そしてわりと古くからわさびと呼ばれていたようで、名前の由来には諸説あります。
奈良の明日香村にある飛鳥京跡苑池遺構からは、「委佐俾三升」(わさびさんしょう)と書かれた木簡が出土しました。6世紀末から7世紀後半あたりの飛鳥京で『わさび』の名が書かれた木簡が使われていたことになります。
また7世紀前半の賦役令にも「山薑」(やまはじかみ)と書かれた『わさび』が記載されていて、わさびが税として納められていたことが分かります。
そして例の本草和名にも「山葵」とあり和名「和佐比」と書かれています。葵という字が用いられたのは、わさびの葉が葵の葉に似ているからだと言われています。

わさびという名前は平安時代以降に定着したと考えられますが、名前の由来には諸説あります。
1930年代に出版された大言海によると、わさびの語源は「悪障疼」(わるさわりひびく)の略だとあります。わさびを口にした瞬間の口内の様子が表現されたものと考えているようです。
もう一つの説は、わさびの語源を「早生葵」(わせあふい)であるとしています。ところが元々は山薑と書かれていたこともあるため、葵の字にちょっとこだわり過ぎているという批判があるようです。
このように実際の語源は定かではありませんが、奈良時代から平安時代頃には「わさび」という呼び名が定着していったようです。
そして現代ではわさびがwasabiという英語になって世界中に知られるようになりました。この鼻にツーンと抜ける独特の辛さが人気なのです。
落語で「青菜」という有名な演目があります。植木屋と仕事先の旦那のやりとりがメインで、「旦さん。鞍馬から牛若丸が出でまして、名も九郎判官」「義経、義経」という下りが知られています。
夏の暑いさかりに、井戸で冷やした「柳陰」という焼酎とみりんを混ぜた酒を飲みながら、氷で冷やした鯉の洗いを食べるシーンにわさびが登場します。そして鯉の洗いにわさびを乗せて食べた植木屋はあまりの辛さに悶絶してしまうのです。
植木屋はわさびのことを八百屋にある「小さいそてつ」というような表現をしていましたが、そう見えなくもないですね…

江戸の文政年間(1818-1831年)になると、わさびは握り寿司の広まりとともに広く使われるようになったようです。握り寿司にわさびを使ったのは当時の江戸三鮨のひとつ、華屋与兵衛の与兵衛寿司と言われています。
わさびの供給も、既に江戸の初期には静岡の有東木が幕府の庇護を受けながらわさびを栽培していましたし、各地で自生わさびの利用が進んでいたようです。
寿司の場合は、そのわさびの風味が魚の臭みを消し、殺菌成分が食中毒などを防ぐという衛生面からの効果も期待できる一石二鳥のコンビネーションでした。
また江戸時代には蕎麦切りもかなり広まっていました。元々は酒と醤油を煮詰めてそばつゆを作っていたのですが、18世紀頃になるとそばつゆに鰹節が使われるようになってきました。
鰹節を使った方が旨みが増しますが、同時に生臭さが残ります。当時の人々はこれが我慢ならなかったようで、鰹節を使ったそばつゆを嫌う人も結構いたようです。
そこで登場したのがわさびです。わさびをこの鰹節で生臭いつゆに溶いて匂いを消したのです。…え、そうなの?と思われますが、それくらいそばつゆの生臭さは批判されていたのです。
また蕎麦切り自体も、打った蕎麦を保存する方法が無かったため、開店前に全て茹でられていて、注文があるとさっと湯がいて提供されていたようです。そうなると蕎麦の風味も残っていたかどうか。さらに蕎麦の品質も悪かったようです。
現代では、わさびはつゆに溶かないことが正統な蕎麦の食べ方のように言われていますが、歴史を振り返るとその食べ方はとても滑稽であると言えますね。
実際には鮮度の落ちた蕎麦の香りづけとつゆの生臭さを消すために様々な薬味が使われていたと言えそうです。大根、花鰹、唐辛子、長ネギ、わさびなどなど。蕎麦を美味しく食べるためにいろいろと工夫をしていたのですね!
2.わさびの香りや味
わさびの辛み成分は、元はシニグリンと呼ばれる配糖体で、すりおろされた際に酸素に触れてアリルイソチオシアネートという辛みと催涙作用をもたらす化合物となります。
私たちは西洋わさびという別種と区別するために、日本古来のわさびを本わさびと呼びます。
日本でもわさびには種類があって、地下茎をすりおろす「わさび」や、練りわさび、粉わさびなどがあります。粉わさびは、わさびのいろいろな部位を粉末にしたものです。練りわさびは、それを半固形にして主にチューブ入りで売られています。

ここで問題があります。地下茎は間違いなく本わさびですが、練りわさびや粉わさびの中には西洋わさびが原料となっているものがあるのです。
というのも、本わさびは手間暇がかかるので高価なのです。東京のスーパーだと地下茎1本1000円程度はします。そのため、練りわさびや粉わさびで原料に本わさびを使っているものも、実はその葉や茎の部分を使っているものが多いようです。業界基準では、原料の50%以上が本わさび使用とうたえることになっているそうです。
3.わさびの育て方

わさびの栽培には大きく分けて2種類あります。ひとつは山奥の清流を使った水わさび。もうひとつは畑わさびです。どちらも同じ苗を使って育てます。
ところが、畑わさびは根茎があまり大きく育ちません。というのも、さきほど出てきたアリルイソチオシアネートという成分が流れ出して、まわりの土を殺菌(他の植物が育たない)すると同時に自らもそれで除菌されて大きくなれないからなのです。
一方の水わさびはアリルイソチオシアネートがどんどん水に流れていきますので、自分の根茎は大きく育つというわけです。
自宅でわさびを育てようとする場合、水わさびは清流を確保できるわけでもありませんし、温度管理もとても難しくなります。そこで、茎や葉を食べる前提で、畑わさびの栽培をご紹介します。

まずわさびの苗を手に入れましょう。ネットでも販売されていますので、簡単に入手できると思います。
秋口に日影の湿った土に植え付けます。腐葉土などでわさびの好む環境を作っておきましょう。春先に花が咲きますので、化学肥料で追肥をして水を多めに与えて育てます。
葉や茎が好みの大きさまで育ったら収穫できます。また数年育てれば大きくなりますので、ここは好みで行って下さい。
日影の湿った場所さえ確保できれば、意外と簡単に育ちますよ。あとは害虫に注意して下さいね!
4.わさびの作り方
さて、他のスパイスであれば、この項は少し長くなるのですが、ご存じの通りわさびの場合はとても簡単です。

地下茎の場合は、おろし金ですりおろして下さい。粉わさびの場合は、適量の水を加えて良く練り込んでラップに包み、数分放置で完成です。
どうですか、簡単ですね!
5.わさびを使った料理レシピ
寿司屋や蕎麦屋に行くとわさびを必ず目にしますが、他にもステーキ屋などでわさびを置いているお店も多いようです。
そんな気軽に使えるわさびを使ったレシピをご紹介します。今回は、短時間でできるものを三つ選んでみました!
5-1.粉わさびドレッシング
ひとつ目のレシピは、サラダにも温野菜にも合うわさびの効いたオリーブオイルベースのドレッシングです。
どんな野菜にも合うさっぱりとしたドレッシングです。
材料:2人分
粉わさび 小さじ1 オリーブオイル 大さじ3 醤油 大さじ1 レモン汁 小さじ2 ジンジャーパウダー 小さじ1/2 塩 少々 黒コショウ 適量 |
(1)粉わさびを同量の水で溶き練り合わせ、ラップに包んで3分置く
(2)残りの材料を入れ、良く混ぜ合わせたら完成!
5-2.オクラとわかめの冷製うどん
暑い日などにランチはさっぱりと冷たいうどんですませたい!という願望が沸き起こってくることがあると思います。
そんな時に、少しだけ手間をかけたこんなうどんはいかがでしょうか?
材料:2人分
うどん 2玉 めんつゆ 適量 オクラ 6本 わかめ 適量 わさび 適量 刻み海苔 適量 鰹節 適量 長ネギ 適量 |
(1)うどんを湯がいておき、ラップをして冷蔵庫で冷やす
(2)オクラの額をとって、塩を振り産毛を取る
(3)オクラを湯で1分20秒前後茹でる
(4)わかめを戻しておく
(5)オクラを細かく切り、わかめは適当な大きさに切り、長ネギを薄い輪切りにする
(6)丼にうどんを入れ、オクラ、わかめ、刻み海苔、長ネギ、鰹節をトッピングする
(7)めんつゆを全体にかけまわして、わさびを添えたら完成!
5-3.まぐろの漬け丼
まぐろのづけを食べれば、その寿司屋の実力が分かるとも言われる具材を使って、まぐろの漬け丼を作ってみましょう。
漬けも簡単な作業でできますので、満足度が高いレシピですよ!
材料:2人分
まぐろ刺身 2人分 醤油 大さじ3 みりん 大さじ2 酒 大さじ2 大葉 2枚 白ごま 適量 わさび 適量 刻み海苔 適量 |
(1)小鍋にみりんと酒を入れ、一度沸騰させてアルコールを飛ばしたら火を止め冷ます
(2)バットにまぐろの切り身を並べる
(3)みりんと酒が冷めたら醤油を加えてバットの切り身に注ぐ
(4)ラップをして冷蔵庫で1時間寝かせる。途中、切り身を一度裏返して両面にタレをいきわたらせる
(5)丼にご飯を盛り、刻み海苔を振って、まぐろを盛り付ける
(6)大葉を刻んで軽く揉んでトッピングし、わさびを添えて完成!