ポピーは和名をケシと言い、有史以前から世界中で栽培されてきた植物です。
その主な理由は、ポピーからはアヘン(阿片)の原料が採取できるからというものでした。
スパイスのポピーは、その種子を利用しますが、アヘンに使われる麻薬成分はほとんど含まれません。それどころか日本では麻薬のイメージとはほど遠い、アンパンの上に乗っていたりします。そうです、あれがポピー(ケシの実)です。
今回はそのような、表の顔と裏の顔を持つポピーをご紹介していきたいと思います。
1.ポピーの名前と歴史
ポピーはスパイスです、というとたいていの人が違和感を覚えると思います。反対にポピーの季節ですね、というと春に満開となったポピーで埋め尽くされた花畑を思い浮かべることができると思います。
ポピーは有史以前から人々に用いられてきたようで、古代エジプトの医学書エーベルス・パピルスにはポピーシードが鎮静剤として記載されていますし、ミノア文明で栄えたクレタ島でもポピーは栽培されていたようです。
エーベルス・パピルスにもあったように、かつては鎮静剤や睡眠薬として使われていたようです。ポピーの学名であるPapaverも、元の意味は古ラテン語の「papa(お粥)」が由来だとされています。このお粥は幼い子に与える粥のことだとされていて、その粥にポピーの乳液を加えると子どもが良く寝ると言われていたようです。えっと、それは危険では…
このポピーの乳液、これがアヘンの原料になります。ポピーは成長すると開花しますが、花が枯れた後にケシ坊主という果実がつきます。これに傷をつけて乳液をださせ、回収して乾燥させると麻薬のアヘンとなります。
このアヘンの原料となるポピー栽培が世界中に広まって、なかでもイギリスは植民地インドで大々的に栽培したものを当時清朝だった中国へ輸出、大きな利益を上げていました。高値で売れるため、各国は戦費調達の手段としてポピー栽培を奨励したりしました。
しかし、中国ではアヘンが人々の生活を直撃します。アヘン購入のため大量の銀貨が国外に流出し、銀の高騰を招きました。銀の高騰によって物価が上がり、人々は苦しい生活を余儀なくされ、退廃的な空気が国中を包み込みました。ついに清朝はアヘンの取締りに乗り出します。
有名なアヘン戦争は、清朝へ密かにアヘンの輸出を続けていたイギリスが、清朝のアヘン取締強化に対して起こした戦争です。戦争に敗れた中国は、香港をイギリスに割譲するなど大きな痛手を負ったのでした。
一方で、このポピーの乳液からはモルヒネを精製することができます。現在でも医薬品として、鎮痛・鎮静剤として用いられていますね。しっかりとガイドラインに沿った使い方をすれば、依存症にはならないと言われていますが、かつてはそのような使い方ができずに、多くのモルヒネ中毒者を生み出しました。
またモルヒネからは、ヘロインを作り出すことができます。このヘロインは麻薬の王様と呼ばれ、極度の幸福感を味わうことができると言われています。そのため各国でヘロイン規制が厳しくしかれています。
このようにポピーには暗い影がいつも付きまとっています。今でもアフガニスタンなどの紛争地では、現金収入を得る手段としてポピーが栽培され、麻薬の原料として売買されています。そういったことも考慮すると、麻薬栽培を撲滅するのは難しそうです。
スパイスとしてのポピーは、お菓子やケーキ、ミックススパイスなどに利用されます。マフィン、ベーグル、ケーキ、菓子パンなどに良く使われています。ドイツの菓子パン「シュトーレン」にはペースト状のポピーが使われています。
日本ではケシの実と呼ばれますが、初めにも書いたようにアンパンの上に乗せるほか、おせちの松風などにたっぷりとケシの実(ポピー)が使われていますね。
またあまり気づかないところでは、七味唐辛子にも多く使われています。製造元によって原料は多少違うのですが、たとえば、浅草の老舗「やげん掘」では、唐辛子のほか、黒胡麻や陳皮などとともに「ポピーシード(けしの実)」が使われています。
七味唐辛子には、ポピーの他にも問題となるスパイスが使われています。麻の実です。大麻規制との関連から、特に欧米では七味唐辛子としても販売することは規制されているところが多いようです。
2.ポピーの香りや味
ポピーを焼くとナッツのような香ばしい香りが漂ってきます。そのため、焼き菓子などに良く使われてきました。いわゆるスパイスのような刺激のある香りとは異なっています。
また食べると、あの粒粒の食感がパンやケーキなどのフワフワ感にアクセントをもたらします。このあたりがポピーが料理に使われる理由だと思いますが、実際はそうでもなさそうです。
アンパンにポピー(ケシの実)が載っている場合、中身は「こしあん」であるというのが伝統的な「アンパン」です。そして黒胡麻が載っていれば、中身は「つぶあん」です。もともとは饅頭にケシの実が載っているところからヒントを得ていて、外観から中身を区別するためにケシの実を振ったそうです。それは明治時代に木村屋總本店がアンパンを作り始めたころからの伝統だそうです。
ポピーにはビタミンB1やビタミンAなどのビタミン類、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル類が豊富に含まれています。もちろん大量に吸収するわけでもありませんが、身体に良い成分が含まれていると考えていいと思います。
3.ポピーの育て方
日本でのポピー栽培(ケシ栽培)は、昭和29年に制定された「あへん法」によって禁止されています。国にあへんを納付する目的か、研究用としての栽培は厚生労働大臣の許可があれば、けし栽培者、けし耕作者、けし研究者には認められる場合があります。
あへん法第十二条 採取したあへんを国に納付する目的で、又はあへんの採取を伴う学術研究のため、けしを栽培しようとする者は、あらかじめ栽培地及び栽培面積並びにあへんの乾そう場及び保管場を定めて、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
一般に流通しているポピーシード(ケシの実)は、発芽しないよう加熱処理が施されていますので、それをもとに栽培することはできなくなっています。
かつての日本では主に青森で栽培されていたことから「津軽」などと呼ばれていました。
4.ポピーシードの作り方
育て方のところでも書きましたが、日本では栽培も収穫も規制されていますので、一般でポピーシードを作ることはできなくなっています。
5.ポピーを使った料理レシピ
5-1.シュトーレン
材料:4人分
強力粉 200g アーモンドパウダー 50g 三温糖 40g 塩 3g 卵黄 1個分 牛乳 140g シナモンパウダー 小さじ1/2 ナツメグパウダー 小さじ1/2 ドライイースト 3g バター 100g ラムレーズン 80g オレンジピール 50g ブルーポピーシード 50g 三温糖 20g 牛乳 50g パン粉 20g 仕上げ用バター 40g グラニュー糖 適量 粉砂糖 適量 |
(1)ホームベーカリーに、強力粉、アーモンドパウダー、三温糖、塩、卵黄、牛乳、シナモンパウダー、ナツメグパウダーを入れ、ドライイーストをセットし生地作りをスタートする
(2)ドライイーストが投入されたら、バターを加える
(3)1次発酵まで終わったら、生地を取り出して、ラムレーズン、オレンジピールを加え、良く混ぜてから10分ほど生地を休ませる
(4)ボウルにブルーポピーシード、三温糖、牛乳、パン粉を入れ、良く混ぜてフィリングを作る
(5)生地を四角く延ばし、フィリングを端を残して敷き詰める
(6)両側からクルクルと巻いて、パウンド型に入れて35度で40分発酵させる
(7)オーブンを200℃で予熱する
(8)オーブンで30分焼く
(9)焼きあがったら、溶かしバターを塗って2時間ほど冷ます。
(10)冷めたら粉砂糖を振りかけて完成!2日くらいしてからのほうが美味しく食べられます。
5-2.鶏の松風
材料:4人分
鶏ひき肉 400g 玉子 1個 パン粉 1/2カップ 味噌 大さじ4 砂糖 大さじ3 酒 大さじ2 みりん 大さじ2 しょうが汁 小さじ1/2 ポピーシード(ケシの実) 適量 |
(1)耐熱皿に味噌、砂糖、酒、みりん、しょうが汁を入れ、電子レンジで温めてから良く混ぜ合わせる
(2)フードプロセッサーに混ぜた味噌と鶏ひき肉、玉子、パン粉を入れ、なめらかになるまでよく撹拌する
(3)耐熱皿にラップを敷き、撹拌した材料を適度な厚みの四角に延ばす
(4)松風らしく、表面に包丁で鹿の子模様の切れ目を入れ、ポピーシードを振る
(5)電子レンジで約10分加熱する
(6)室温まで冷まして、末広に切り分け、松葉串などを挿せば完成!
5-3.ポピーシードクッキー
材料:2人分
薄力粉 200g 三温糖 80g バター 50g 塩 少々 ブルーポピーシード 大さじ2 玉子 1個 ベーキングパウダー 少々 レモン 1個 |
(1)レモンの皮をむき、皮を摩り下ろす
(2)レモン以外の材料を全てボウルに入れて、レモンの皮を加えて、よくこねる
(3)生地を15分ほど休ませる
(4)オーブンを180℃で予熱する
(5)オーブン皿にクッキングシートを敷いて、その上に2~3センチに丸めた生地を置いていく
(6)オーブンで約10分焼く
(7)焼き色がついたら取り出して、室温まで冷ましたら完成!