「クチナシの実」は東アジアを原産地としていて、日本でも古くから用いられてきたスパイスで、料理には主に色づけ、生薬としては精神安定剤や胃腸炎の薬として処方されてきました。
私たちが料理として目にするクチナシの実は、黄色に着色されたものです。特にお正月におせち料理として食べる栗きんとんの黄色がクチナシの実です!
そんなクチナシの実についてたっぷり勉強していきましょう。
1.クチナシの実の名前と歴史
クチナシはあかね科の常緑樹で、高さ数メートルに成長する木です。初夏に白い花を咲かせて、秋に赤茶色の実がなります。これがクチナシの実です。
熟したら割れそうな見た目ですが、決して口を開かないところから、クチナシの名前がつきました。
クチナシの白い花は香りが強いことから、正式名称の「Gardenia jasminoides」の後半はジャスミノイズ、つまり「ジャスミンのような」という意味がつけらています。
このクチナシは東アジアに自生する植物で、中国では1000年以上前から栽培されていたと言われています。漢方にも使われていましたが、園芸用としても好まれていて、18世紀に欧米にも園芸用としてイングリッシュ・ガーデンなどに導入されていきました。
さて、先ほどの英語でのクチナシの名前Gardenia jasminoides ですが、1761年にイギリスの植物学者John Ellisジョン・エリスによって記述されました。ジャスミンという人々に知られた名前を付けたこともあって、他の呼び名よりもこの名前が定着することになったようです。
このクチナシが栽培され始めたのは、中国の五代十国時代(907年~960年)から宋の時代(960年~1279年)のことでした。
五大十国の南唐では、花鳥画で知られる徐煕(じょき)という画家がクチナシの絵を残しています。南唐滅亡(975年)後もこの画家の孫が北宋で活動を続けました。
また北宋第8代皇帝の徽宗(きそう 在位1100年~1126年)は、芸術を奨励し、美しい庭園や絵画に力を入れました。この流れの中でクチナシが栽培され、庭園を飾り、美しい白い花は絵の題材となったようです。
その後、クチナシは絵画のみならず、他の工芸品にも用いられていき、元朝(1271年~1368年)には陶器に、続く明朝(1368年~1644年)では磁器に描かれていました。
東アジアを除く海外で栽培を始めたのは1757年のイギリスのJames Gordon(ジェームズ・ゴードン)だと言われています。またアメリカでも1762年にチャールストンで栽培が始められたと記録されています。
ところでみなさんはタヒチクチナシ(ティアレ・タヒチ)という花をご存じでしょうか。南国タヒチのシンボルにもなっているこの花は、化粧品に用いられるほか、ポリネシアン文化の象徴ともいえるレイ(首飾り)にも使われているんですよ!
クチナシの実は漢方にも用いられます。クチナシの実は山梔子(さんしし)と呼ばれていて漢方薬として使われています。効能としては消炎、解熱、鎮静、止血などがあげられていて、黄疸や目の充血、喀血などに用いられます。
話は変わりますが、「くちなしの花」という歌をご存知でしょうか?ご年配の方には知られている曲だと思いますが、1973年に150万枚もの大ヒットを記録した渡哲也さんの代表曲です。
渡さんがサビのところで「くちなしの花の 花のかおりが 旅路のはてまでついてくる くちなしの白い花 おまえのような花だった…」と少し抑えた調子で歌い上げていましたね。
クチナシはやはりあの香りが印象的なんでしょうね。恋人のように忘れられない香り… そしてあの梅雨の時期に咲くまっ白い花の可憐さ。国内外を問わず、園芸用としても人気を誇るクチナシの魅力が理解できそうです。
2.クチナシの実の香りや味
クチナシの実にはあまり香りがありません。また味もほとんどしないため、純粋に食品や布の染料として用いられてきました。
料理用の着色には、さつまいもやたくあんなどを黄色に着色する他、クチナシの実を発酵させることで青色も得られるため、和菓子の青色などにも用いられてきました。食品に使われている場合にはクチナシ青色素などの表示があるので分かります。
この黄色の着色成分はクロシンと言われ、同じ黄色の着色に使われるサフランにも含まれている成分です。
3.クチナシの育て方
クチナシは日本にも自生する植物ですから、栽培も比較的簡単で、実を収穫してスパイスにすることも十分可能です。今回はさらに難易度が低い苗木からの栽培を学んでみましょう。
植え付けは寒い時期を避けて、春に行います。鉢やプランターに観葉植物用の土を入れ、根本に土を盛り付けるように浅く植え付けをします。植え付けたらたっぷり水を与えておきましょう。
クチナシは直射日光にそれほど強いわけではありませんので、半日影のようなところを中心に、日差しの弱い時には日なたで育てるようにしましょう。
初夏と秋口に花芽が出来て、翌年の夏に開花します。白い香りの良い花が私たちを楽しませてくれます。
クチナシは花芽を2回つけるため、剪定の時期には注意が必要です。花をつけた後、すぐに剪定をするのが理想です。少し遅れると翌年の花芽を摘んでしまうことになるので、適切な時期に行いましょう。
4.クチナシの実の作り方
秋口にきれいなオレンジ色のクチナシの実を枝元から摘まんで収穫します。
一度軽く水洗いをして、水分を取ったら、そのままザルにでも載せて日陰で乾燥するまで干します。
クチナシの実がしわしわになったら完成!
5.クチナシの実を使った料理レシピ
これまで見てきた通り、クチナシの実は色づけのスパイスです。ここに紹介する3つのレシピも全て色づけの役割をはたしています。
クチナシの実は、ホールでもパック入りのものでも構いません。色づけの役目ですから、見つけたものを使ってみて下さい!
5-1.栗きんとん
クチナシの実を使った料理のレシピ、トップバッターはお正月のおせち料理で登場する栗きんとんです。おせちの栗きんとんは栗金団と書いて、栗にクチナシの実で黄色く染めた甘い餡をまとわせた金色の料理です。おそらくは明治時代頃に作り始められたのではと言われています。
一方、和菓子の栗きんとんは諸説ありますが、岐阜県の和菓子屋が大正時代につくり始めたと伝えられています。こちらは「茶巾絞り」という形で焚いた栗だけを栗の形にした和菓子です。字も栗金飩と書き、おせちの栗金団とは別のものなのです。
材料:3人~4人分
さつまいも 1本(200g) 栗の甘露煮 10個 栗の甘露煮のシロップ 1/2カップ クチナシの実 2個 水 大さじ2 砂糖 30g みずあめ 小さじ2 塩 少々 |
(1)さつまいもの皮を厚めに剥いて輪切りにし、水を張ったボウルに入れてあく抜きする
(2)さつまいもを鍋に入れ、ひたひたの水を加える
(3)クチナシの実をつぶし、お茶のパックに入れて鍋に加え、さつまいもがやわらかくなるまで煮る
(4)さつまいもが煮えたら、熱いうちに裏ごしする
(5)鍋に裏ごししたさつまいもと栗の甘露煮のシロップ、水、砂糖、水あめ、塩を加え、弱火で煮詰める
(6)とろみがついて照りが出てきたら、栗の甘露煮を加えてひと混ぜしたら、火を止める
(7)皿に盛って完成!
5-2.きいろのおだんご
お団子と言えば白が基本ですが、最近ではお月見団子に月に似た黄色の団子が含まれているのを見かけるようになりました。
黄色い団子もクチナシの実を使えば簡単にできてしまいます!
材料:約10個分
クチナシの実 2個 白玉粉 100g 水 900cc(白玉粉の指定した分量) |
(1)ボウルに適量の水を張り、クチナシの実をつぶしてお茶のパックに入れ、ボウルに加え色を出す
(2)別のボウルに白玉粉を入れ、そこにクチナシの実で色づけされた水を少しずつ加えて練る
(3)クチナシの水が無くなったら、普通の水を加えて、耳たぶの柔らかさを目指して練る
(4)やわらかい生地ができたら、2~3センチの玉に丸めていく
(5)鍋に湯を沸騰させて、団子を入れる。すぐに浮き上がってくるので、そこから1分ほど待って引き揚げ、冷水にとる
(6)皿に盛って完成!砂糖をかけたり、雑煮などに入れて味わって下さい!
5-3.スイートポテト
クチナシの実レシピの3つ目はスイートポテトです。バニラを使わずにさつまいもの香りだけで勝負するレシピにしました。
最後の焼き加減だけ、焦げないように注意して下さいね!
材料:5人分
さつまいも 1本(約200g) クチナシの実 1個 砂糖 大さじ2~3 無塩バター 50g 牛乳 大さじ2 卵黄 2個 塩 少々 黒ゴマ 適量 |
(1)さつまいもの皮を厚めに剥いて輪切りにし、水を張ったボウルに入れてあく抜きする
(2)さつまいもを鍋に入れ、ひたひたの水を加える
(3)クチナシの実をつぶし、お茶のパックに入れて鍋に加え、さつまいもがやわらかくなるまで煮る
(4)さつまいもが煮えたら、熱いうちに裏ごしする
(5)さつまいもをボウルに入れ、砂糖、バター、牛乳、卵黄1個、塩の順に加えてその都度よく混ぜ合わせる
(6)ボウルのまま室内で冷まし、その後冷蔵庫で30分冷やす
(7)オーブンを200℃に予熱する
(8)オーブン皿にオーブンシートを敷き、その上に丸めた生地を置いていく
(9)残りの卵黄を溶いて、刷毛で一つ一つ塗っていく
(10)オーブンに入れて10分焼く
(11)10分経ったら一度取り出して、もう一度卵黄を塗り、黒ゴマをトッピングする
(12)黄金色に焼けたら完成!