ナツメグは同じ木から二種類のスパイスが獲れることで有名です。
そうです、ナツメグとメースです。
本当は一回で解説してしまいたいのですが、今回はナツメグのほうに話を絞りたいと思います。
このナツメグ、日本料理には馴染みのないスパイスなのですが、みなさんはこのスパイスをご存知でしょうか?
このスパイスも、かつてはスパイス戦争で欧米各国が生産権を争った歴史があり、シンドバッドにも関係してくるようです。
じっくり勉強していきましょう。
1.ナツメグの名前の由来と歴史
ナツメグは英語のnutmegの日本語読みですが、その英語はNut(豆)とMeg(ムスク)が由来だと言われています。
正確に辿ると、中世英語のnotemugeに由来し、さらに古フランス語のnois mugedeや、古プロヴァンス語のnotz muscada に由来するそうです。
古フランス語や古プロヴァンス語での意味は、nut smelling like musk (ムスクの香りがする豆)となります。
ナツメグは語源の意味がストレートに現代に伝わる一例ですね。
このナツメグは、インドで相当古くから使われていたようで、アーユルヴェーダにも記載があります。そしてヨーロッパにも伝わってはいたようですが、量も少なく高価なスパイスでした。
ナツメグの原産地はクローブと同じモルッカ諸島です。
<モルッカ諸島地図>
クローブのところでも書きましたが、このナツメグの原産地は、大航海時代になって欧米各国が長距離航海能力を持つ船ができるまで、特定されていませんでした。
特にこのナツメグはバンダ諸島という小さな島々が連なったところが原産地であるため、なかなか見つけるのは難しかったと思われます。
まずモルッカ諸島の交易権を握ったのはポルトガルでした。16世紀頃まではヨーロッパで流通するナツメグは、ほぼポルトガルの港リスボン経由だったと言われています。
その後、17世紀に入るとオランダがインドネシア海域に進出。オランダ東インド会社を設立し、ナツメグの交易権をポルトガルから奪うことに成功します。
そしてそこから200年ほどの間、ナツメグ貿易はオランダ東インド会社が独占することになりました。
その後、18世紀後半になってフランスがナツメグの苗をこっそりと盗み出し、モーリシャス諸島での栽培に成功します。ここから世界各地で栽培されることになりました。
またモルッカ諸島の支配も18世紀末にオランダ東インド会社からイギリス東インド会社へと移り、さらに19世紀前半にもう一度オランダ東インド会社へ戻るという変遷をたどりました。
このナツメグは和名を肉荳蔲(ニクズク)と言います。
15世紀の室町時代に飯尾永祥によって作られた「撮壌集」(さつじょうしゅう)という国語辞典があります。
その薬種類という項に肉荳蔲(ニクズク)の単語が登場しています。
カルダモンの和名が小荳蔲(ショウズク)、漢名が白荳蔲ですから、このような豆の形をしたものには、このような名前をつけていたのでしょう。
2.ナツメグの香りや味
ナツメグには軽やかな甘い香りがあります。この香りが肉や魚の臭みを消してくれるのです。
ナツメグの香りは、熱を加えることによって引き立ちます。
ですから仕上げに振るのではなくて、仕込み段階で使うのが鉄則です。
また火にかけると香りが強まるという前提で、あまり使いすぎないというのも忘れないでおきましょう。
ナツメグは2センチから3センチ程度の球状をしています。使用する時にナツメグ・ミルと呼ばれるミルを使ったり、スパイス用のおろし金をつかって粉末にしてから使用します。
粉末を舐めると少し苦みがありますが、刺激の少ない苦みと言えるでしょう。
空気に触れているとどんどん風味が薄れてしまうので、使用する分だけ粉末を用意するといいでしょう。
このナツメグですが、生のままで5g以上の大量摂取をすると、頭痛や幻覚症状を引き起こすことがしられています。
ですが、普通の粉末を料理に使っている限りは大丈夫ですので、ご心配なく。
3.ナツメグの育て方
ナツメグは10メートルくらいの高さになる木です。
さらにナツメグは雌雄異株なので、雄の木と雌の木を植えて交配させないと実がなりません。
このあたりがなかなか難しいところですね。
気候は年間を通して15度以上のところが良いでしょう。
ですから日本だと温室栽培になるのではないかと思います。
ただし、高く成長しますので15mほどの高さも必要です。
となると、雌雄を何本も植える必要があったり、気候のことを考えると一般的には日本での栽培は難しいと言わざるを得ないでしょう。
苗はまれにですが通販などで見ることがありますので、どうしても育てたいという熱意のある方はチャレンジしてみても良いでしょう。
ただし実が収穫できるのは、植えてから7年後です。その後は40年から50年ほど実を収穫することができます。
4.ナツメグシードの作り方
ナツメグは玉子型の果実をつけます。果実が成熟すると果肉が二つに割れ、中から赤い仮種皮(こちらはメースになります)に包まれた種子が現れます。
仮種皮を剥がして、中の種子を取り出して石灰液につけてから乾燥させます。
元々はオランダが、他国に種子が流出しても芽が出ないようにするための処理だったと言われています。
実際は発芽してしまうので、この処理は必要ないのかもしれませんね。
種子が乾燥したら、殻を割って仁を取り出します。
この仁をさらに乾燥させればスパイスとしてのナツメグの完成です。
5.ナツメグを使った料理レシピ
これまで見てきたように、ナツメグは独特な苦みがあるため、応用できるレシピも限られています。
今回ご紹介するレシピも、加熱すると甘い香りが強くなるという特徴を生かしたものです。
一見本格的な料理に見えるものもありますが、なるべく簡単なレシピにしてみました。
5-1.ハンバーグ
レストランやご家庭でも定番メニューと言えるハンバーグ!
いつ食べてもおいしいですよね。
そんないつものハンバーグに、ナツメグをちょっと加えてあげると簡単に味をグレードアップさせることができるんですよ!
今回はそんなナツメグ入りのハンバーグ料理を研究してみましょう!
ちなみにハンバーグは英語では何と言うかご存知ですか?アメリカでは一般的にこういう食べ方をしませんので、正解は該当する単語がないということになります。
似た料理にはmeatloafがありますので、思い切ってミートローフと言ってしまったほうが通じるかもしれませんよ!
材料:4個
合挽き肉 280g 玉ねぎ 1/2個 玉子 1個 パン粉 1/2カップ ナツメグ 小さじ1/2 塩 少々 黒コショウ 少々 サラダ油 適量 ケチャップ 大さじ4 中濃ソース 大さじ2 赤ワイン 大さじ1 |
(1) 玉ねぎをみじん切りにする
(2)ガラス製のボウルに玉ねぎ、合挽き肉、玉子、パン粉、ナツメグ、塩、黒コショウを加え、粘りが出るまでよく混ぜる
(3)フライパンにサラダ油を熱して、具材を形作って並べ、中火で焼き色をつける
(4)両面に焼き色がついたら、弱火にして中までじっくり火を通す
(5)ハンバーグの中央に竹串を刺して、汁が透明になっていれば火を止める
(6)ハンバーグをフライパンから取り出して、肉汁にケチャップ、中濃ソース、赤ワインを加えて、ひと煮立ちさせる
(7)皿にハンバーグを盛り付け、ソースをかけたら完成!
5-2.エビグラタン
子どもが大好きなメニューが続きます。次はエビグラタンです!
今回はエビを使いますが、具材は何でも大丈夫!冷蔵庫にある野菜などもフル活用しましょう!
材料:4人分
マカロニ 100g むきえび 100g ぶなしめじ 50g 無塩バター 20g 牛乳 800ml 薄力粉 大さじ4 生クリーム 40ml コンソメ 1個 塩 適量 黒コショウ 適量 ナツメグ 小さじ1/2 ピザ用チーズ 適量 パセリ 適量 |
(1)マカロニを指定時間より1分ほど短く茹でる
(2)玉ねぎを薄切りに、ぶなしめじは石づきを取り、手でばらばらにほぐす
(3)フライパンにバターを熱し、中火で玉ねぎを炒める
(4)玉ねぎが透き通ってきたら、むきえび、ぶなしめじを加えて弱火で炒める
(5)薄力粉を加えてさっと混ぜ合わせる
(6)牛乳とナツメグを加えて中火で混ぜ合わせ、さらにコンソメと生クリームを加える
(7)とろみが出てきたら、さらにマカロニを投入してひと混ぜし、塩、黒コショウで味を調える
(8) オーブンを200℃で予熱する
(9)グラタン皿に盛りつけ、ピザ用チーズをまぶし、オーブンで焼く
(10)焼き色がしっかりついたら、パセリをまぶして完成!
★レシピの裏ワザ★ボリューム感が足りないという場合には、じゃがいもの薄切りやブロッコリーなどを予め茹でてから、(7)のマカロニを入れるときに一緒に入れてみて下さい!食べ応えのあるグラタンになりますよ。
5-3.洋ナシのコンポート
最後にスパイスを使った洋ナシのコンポートのレシピを紹介します。
洋ナシを甘く煮付けたものですが、ナツメグを少し加えるとスパイスの香りをまとったゴージャスな一品になります!
材料:4人分
洋ナシ 4個 ブラウンシュガー 100g レモン汁 大さじ1 白ワイン 50ml ナツメグ 少々 クローブ 少々 シナモン 少々 水 250ml~300ml |
(1)洋ナシの皮をむき、芯をとって4等分します
(2)ホーロー鍋にブラウンシュガー、白ワイン、水を入れ、ひと煮立ちさせます
(3)火を弱火にし、洋ナシ、レモン汁、ナツメグ、クローブ、シナモンを加え、灰汁を取りながら約20分煮込みます
(4)鍋を火から下ろし、そのまま冷まします
(5)室温になったら冷蔵庫に入れ、数時間冷やせば完成!
★レシピの裏ワザ★ナツメグを使った洋ナシのコンポートのレシピを紹介しましたが、リンゴや桃でも同じ手順でつくれます。季節に合ったフルーツを使ってみて下さいね!