ニンニクはスタミナがつくスパイスとして、料理や栄養食品などいろいろなものに取り入れられていますね。
このニンニク、今から4000年以上前のエジプトでも、ピラミッド建設現場の労働者にスタミナ源として与えられていた由緒あるスパイスなのです!
1.ニンニクの名前と歴史
ニンニクはネギ属の多年草で、原産地はおそらく中央アジアのあたりであると考えられています。例えば、スイスの植物学者アルフォンス・ドゥ・カンドール(de Candolle)は、論文”Origine des plantes cultivees”(1882)の中で、ニンニクの原産地はシベリア南西部であるとしていますが、正確な原産地はわかっていません。
ニンニクは古くから地中海沿岸地域で広く用いられていて、古代エジプトでは、ニンニクがピラミッド建設に従事する労働者や奴隷に与えられていました。ニンニクを食べると、スタミナがつき、体も強くなると考えられていたからです。また労働中の傷などが化膿することを防ぐために、薄くきったニンニクを貼ったり、すりおろしたものを塗ったりしていたようです。
紀元前5世紀の歴史家ヘロドトスは、紀元前26世紀のエジプト王クフのピラミッド建設の際にニンニクやタマネギが大量に消費されたとの記録が残っていると書いています。そして実際にクフ王のピラミッドからは、ニンニクが描かれた絵が見つかっています。
スパイスびとでもお馴染みの「エーベルス・パピルス」(紀元前1500年頃)には、ニンニクが薬として22回登場して効能が紹介されています。薬として幅広い効能が認められていたことになりますね!
また黄金のマスクで知られるツタンカーメン王(紀元前14世紀)の墓からは、乾燥したニンニクが見つかっていますが、おそらくは魔除けとしても用いられていたのでしょう。
ニンニクが魔除けとして使われる対象として有名なのは、ドラキュラですね。これには実際のモデルがいて、15世紀のルーマニア出身のヴラド3世という人物です。このヴラド3世がニンニクを嫌うというのは、あくまでも小説上の設定です…
さて話を元に戻しましょう。
古代ローマにおいても、大プリニウスは、著書「博物誌」で体に良いものとしてニンニクをあげています。同じく古代ローマの詩人ヴェルギリウスの「牧歌」にもニンニクが登場しています。
紀元前8世紀の詩人ホメーロスは、客人を迎えたネスターが食卓にニンニクを出すシーンを描いています。家庭の食卓にもニンニクが広まっていたことがわかりますね。
ここでちょっと東のほうに目を向けてみましょう。このニンニク、中国へは西域探訪で知られる張騫(ちょうけん)がもたらしたと伝えられています。そのことからニンニクは葫(日本流に発音すると「コ」)と呼ばれることがあります。
その中国を経由して、日本には4世紀~5世紀頃に伝わってきたと考えられています。古事記や日本書紀には、日本武尊(やまとたける)が、山神が化けて出た白鹿に蒜を投げつけて撃退する場面が出てきました。
源氏物語にもこのような下りがあります。
『…極熱の草薬を服して、いと臭きによりなむ、え対面賜はらぬ。』
『ささがにのふるまひしるき夕暮れにひるま過ぐせといふがあやなさいかなることつけぞや』
『逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならばひる間も何かまばゆからまし』
「極熱の草薬を飲んで臭いので会えません」
「夕方来てみたのに昼間は会えないとは勝手ですね」
「毎晩会っている仲なら昼間まぶしいということもないでしょうに」
昼間という言葉が、蒜間と掛けられていて、極熱の草薬=蒜(ニンニク)を飲んで臭い間という意味になっている。ただし、この蒜は、野草の野蒜の可能性が高いのでその点は留意が必要です。
野蒜とニンニクの区別ですが、918年の深江輔仁の「本草和名」には、『葫「和名於保比留」』という記載があります。このオオビルと読むものが、ニンニクと考えて間違いないと思われます。
さて日本においてもニンニクの臭いは問題になることがありました。ニンニクは食べると体が元気になることから、良薬として使われてきましたが、体が元気になるということはそれだけ欲情が刺激されることになります。このことから、よく寺の入り口に「不許葷辛酒肉入山門」(くんしんしゅにく、山門に入るを許さず)と書かれた碑が立っています。ニンニクやニラなどの臭いものや辛い物、酒を飲んだもの、生臭い肉を食べたものは寺の敷地に入ることを禁止するという意味なのです。
ここで、ニンニクの名前の由来をみてみることにしましょう。ニンニクの英語名は”garlic”(ガーリック)です。このgarlicは中世英語のgarlekに由来し、さらに古英語のgarlecに遡ります。garは「槍」を意味していて、lecは”leek”つまりはネギの意味がありました。この二つの言葉が組み合わさって、garlicという単語になったようです。
日本では元々漢名「蒜」(中国ではサンと読む)や「葫」が使われていましたが、室町時代あたりの書物では、いろいろな漢字を当ててニンニクと読ませるようになってきました。
ニンニクもガーリックも名前を聞くだけで、臭さが想像できてしまいますね。次はその臭いや味を研究してみることにしましょう。
2.ニンニクの香りや味
みなさんはニンニクを切るまえに、房のまま臭いを嗅いだ経験はありますか?そして経験のある方に聞いてみたいのですが、切る前のニンニクは臭いですか?
実は切る前のニンニクは無臭に近いのです。ところが「切ってみる」と、ニンニクに含まれる臭い成分アリシンが作られて、あの独特のくさいにおいが発生するのです。
しかし、あの臭みのおかげで肉や魚のエグい臭みが打ち消され、加熱することで食欲のわく香りになってくるのは不思議ですね。
3.ニンニクの育て方
ニンニクは家庭でも比較的簡単に栽培できます。9月~10月頃が植え付けに適した時期です。
まずは栽培用のニンニクを購入し、深さが20センチ以上のプランターを用意しましょう。
プランターに鉢底石を敷き詰め、その上に培養土を入れます。10センチ間隔で深さ5センチの穴を掘ります。
ニンニクを1片ずつに分け、芽を上にして植え付けます。
もし1箇所から複数の芽が出たら、小さいほうを間引きましょう。また2か月に1回のペースで追い肥をします。
5月頃にとう立ちしますが、栄養が取られるので早いうちに摘み取りましょう。摘み取ったものが、いわゆる「ニンニクの芽」と言われるものです。
葉や茎が枯れてきたら、根を引き抜いて収穫します。
4.ニンニクの保存方法
収穫したニンニクの茎と根を全て切り落とします。
残ったニンニクの鱗茎を、乾燥して保存します。まずは日陰の風通しの良い場所で乾燥させます。
外側の皮が乾いたら剥き、また乾燥させます。これを何度か繰り返して完全に乾燥したら吊るして保存します。
風通しが悪いところではすぐに腐ってしまいますので、完全に乾燥させることに注意しましょう。
5.ニンニクを使った料理レシピ
ニンニクのレシピは、スパイスびと史上、一番数が存在すると思われます。そうですよね、ニンニクを刻んで…というシーンは無限にあると思います。
ここでは、ニンニクの風味をダイレクトに楽しむレシピをご紹介しましょう。
5-1.アンチョビ・キャベツ
最初のレシピは、ニンニクの香りとアンチョビの塩気が楽しめます。
レシピではクミンを少量入れていますが、これはお好みですので無くても構いません。
材料:2人分
キャベツ 1/4個 ニンニク 1片 アンチョビペースト 小さじ1/2 乾燥赤唐辛子 1/2本 オリーブオイル 120cc 塩コショウ 適量 クミン 小さじ1/2 |
(1)キャベツをザク切り、ニンニクをみじん切り、乾燥赤唐辛子を輪切りにする
(2)クミンがシードの場合、スパイスグラインダーで押しつぶして香りを出しておく
(3)フライパンにオリーブオイルをひき、ニンニク、乾燥赤唐辛子、クミンを入れ、弱火で香りが立つまで炒める
(4)キャベツを加え、しんなりするまで炒める
(5)アンチョビペーストを加えてひと炒めしたら、塩コショウで味を調えて完成!
5-2.ガーリック・トースト
パーティーの定番「ガーリック・トースト」です。パーティーを通してずっと出しておける貴重な存在ですね!
おかわりにも対応できるように、多めに用意しておきましょう。
材料:2人分
フランスパン 1/2本 ニンニク 2片 バター 20g オリーブオイル 100cc 乾燥パセリ 適量 |
(1)フランスパンを4切れ用意する
(2)ニンニクをすりおろし、溶かしバターとオリーブオイルと混ぜる
(3)トースターにアルミホイルを敷く(オイル、バターが垂れるため)
(4)フランスパンを、トースターでこんがりと焼く
(5)乾燥パセリをふって完成!
5-3.ペペロンチーノ
パスタの中でも最もシンプルで、それゆえに料理人の腕前が味に直結してしまうという、料理人泣かせの一品です。
ペペロンチーノはイタリア語で唐辛子を意味しますが、イタリアでは「スパゲッティ・アーリオ・エ・オーリオ」(Spaghetti aglio e olio)と呼ばれ、唐辛子は出てこないかも?
いや、正確には「スパゲッティ・アーリオ、オーリオ・エ・ペペロンチーノ」(Spaghetti aglio, olio e peperoncino)だ!などと言われたりしています。
本来はイタリアの家庭料理なので、シンプルな素材でさっと作るのがポイントです。
材料:2人分
パスタ 200g ニンニク 2片 乾燥赤唐辛子 2本 オリーブオイル 大さじ2 バター 10g イタリアンパセリ 適量 塩 20g(水2リットルの場合) |
(1)鍋に湯を沸かし、沸騰したら塩を加え、パスタを茹でる
(2)ニンニクをスライスし、乾燥赤唐辛子の1本を輪切りにする。残りの1本は縦半分に切り、種を除いておく
(3)フライパンにオリーブオイルを熱し、スライスしたニンニクを入れて弱火で香りを出す
(4)ニンニクの香りが立ってきたら、輪切りにしていない赤唐辛子を入れる
(5)茹で汁をお玉半分程度すくってフライパンに加え、ぐるぐると揺すって混ぜ合わせる
(6)白くなってきたら唐辛子を取り出しておく
(7)茹であがり時間1分前になったら、パスタを鍋からトングで引き上げて、水切りせずにフライパンに加え、バターも落とし、中火で汁気が無くなるまでよく混ぜ合わせる
(8)汁気がなくなり、パスタが乳化したソースでつややかになったら、輪切り唐辛子を加えてひと混ぜして、皿に盛ってイタリアンパセリを散らしたら完成!
★レシピの裏ワザ★パスタを入れてから、ソースが乳化せずに分離してしまうことがあります。その場合は、あわてずに茹で汁をもう一度お玉半分程度加えて、再度混ぜ合わせてみましょう。