花椒というスパイスは、中国の山椒(サンショウ)のことで、カショウとかホァジャオと呼ばれます。四川料理に欠かせないのがこの花椒で、例えば本格的な麻婆豆腐(マーボードウフ)を食べた時に舌がしびれるような感覚がありますが、この花椒の特徴はそのしびれる辛さなのです。
日本で山椒というと、煮物やお吸い物についてくる若い木の芽を想像と混同してしまいますので、ここでは花椒という表記に統一したいと思います。
この花椒というスパイスは四川料理の歴史と切り離して語ることができません。中国の深い歴史と共に花椒を学んでいきましょう。
1.花椒の名前と歴史
花椒は高さが3~7メートルの落葉低木で、枝にとげを持っています。ミカン科サンショウ属の植物で、日本にある山椒とは種は異なりますが、同じサンショウ属の仲間です。
花椒は果皮がスパイスとなりますが、その実が熟すとまるで赤い花のように見えることから花椒と呼ばれるようになったと言われています。
原産地の中国語では一般的には花椒と書いてホアジャオと読みますが、他にも多くの名前があって、秦椒や蜀椒、川椒、山椒などと呼ばれています。
古くからあるスパイスで、後漢時代に成立した「神農本草経」には、花椒は秦の時代に栽培が始まったと書かれており、それ以前は野生のものを使っていたようです。
現代でも人の手で栽培されていますが、実の大きさによって大椒、小椒に分かれ、収穫時期によって秋椒、伏椒に分けられています。
この花椒が最も活躍するのが四川料理、中国では四川菜(シーチュアンツァイ)とか川菜(チュアンツァイ)と呼ばれている料理です。四川料理は中国四川省とその周辺で発展してきた郷土料理で、麻婆豆腐や辣子鶏(ラーズージー)などの辛い料理が多いことが特徴的です。
四川料理の特徴は「三香三椒三料七滋八味九雑」にあると言われています。三香とはネギ、ニンニク、ショウガ。三椒とは唐辛子、胡椒、花椒。三料とは酢、豆板醤、もろみ。七滋とは、辛味、酸味、甘味、苦味、しびれ、香味、塩気。八味とは魚香、麻辣、酸辣、乾焼、唐辛子、紅油、怪味、椒味。九雑とはいろいろな材料をふんだんに使うという意味があります。
その味覚の代表が麻辣です。麻辣と書いてマーラーと読みますが、しびれて辛い味という意味です。この麻辣を出すために花椒がスパイスとして使われるのです。
日本の普通のレストランに行って、麻婆豆腐を頼むとします。辛口と書いてあって、とても辛いものが出来てきたとしても、この麻辣とは違う場合が多くあります。
そうです。花椒を使っていれば必ずある「しびれ」が軽いのです。時には全くしびれがない麻婆豆腐も出てきます。花椒がコスト高で使わないのか、日本人の口に花椒が合わないと判断しているのか分かりませんが、とにかく日本流にアレンジした麻婆豆腐ということですね。
この花椒は中国では漢方としても用いられています。元々医薬書の本草に掲載されているわけですから、歴史的にも生薬として用いられてきました。
生薬「花椒」として、健胃、鎮痛作用があるとされていますが、これは中国国内に限った話で、残念ながら日本では漢方としては使用されていないようです。
さてこの花椒は欧米での認知度があまり高くありません。ですからオリジナルの名前が付けられることもなく、Sichuan Pepper(四川の胡椒)、Chinese Pepper(中国の胡椒)などと呼ばれています。
ただ四川料理についてはよく知られているようで、中華の味のひとつとしてmalaなどと表記されているものもよく見かけるようになりました。しびれは英語ではnumbingと言いますので、麻辣の味はnumbing and spicyということになるようです。
2.花椒の香りや味
花椒の香りや味については、既に多く学んできましたが、ここではその味覚の元である成分を確認してみましょう。
その成分はヒドロキシ-α-サンショールといいます。サンショールは日本語の山椒から取られたものです。この分子がしびれや辛みのもとになっています。
また花椒はレモン系の爽やかな香りを放つので、麻婆豆腐に大量にかけられた花椒の粉によって食欲を掻き立てられたりしますね。
3.花椒の育て方
日本では花椒と同じサンショウ属の山椒が自生していますので、種が手に入れば育てることも可能です。ただ日本ではほとんど流通していませんので見つけるのは大変だと思います。
暑さの和らいだ10月頃に大きめの鉢に種まきをします。鉢に赤玉土と腐葉土を混ぜ、深さ1センチ程度の穴に種を置き、穴が埋まるように土をかぶせます。
水分を切らさないように管理すれば、春先には発芽しますので、混まないように適宜間引きを行いましょう。
さて、花椒の栽培はここから先が長いのです。数年待たないと実がなりません。また雌雄異株ですから、雌雄が揃っていて、さらに雌株でないと実をつけません。
また根腐れしやすく、移植に弱いところもありますので、焦らずに根気よく待つことが重要です。
4.花椒の作り方
花椒は収穫すると日影で乾燥させます。しばらくすると中の黒い種が飛び出してきますが、乾燥するまでそのまま放置します。
乾燥してからからになったら、黒い種を取り除きます。果皮だけを集めたら完成です!
5.花椒を使った料理レシピ
花椒を使ったレシピは自然と四川料理に近いものになりますが、少し変化球も混ぜてみました。
麻婆豆腐は辛めのレシピ、辣油は香り高く、辣子鶏は激辛に仕上げてあります。辛さはお好みで調節してみて下さい。
5-1.麻婆豆腐
四川料理の代表格「麻婆豆腐」のレシピです。家庭で作る場合には、麻婆豆腐の素を使う場合が多いと思いますが、材料さえ揃えば一から作ったほうが別次元の麻辣が味わえます。
花椒も比較的手に入りやすいですから、ぜひお試しください!
材料:2人分
花椒 小さじ2 木綿豆腐 1丁 豚ひき肉 100g にんにく 1片 しょうが 1片 長ネギ 1/4本 乾燥赤唐辛子 4本 チリパウダー お好みで 豆板醤 大さじ2 甜麺醤 大さじ1 オイスターソース 大さじ1 醤油 小さじ1 紹興酒 大さじ1 鶏ガラだし 100ml 水溶き片栗粉 100ml サラダ油 大さじ1 |
(1)花椒の半分(小さじ1)をスパイスグラインダーですり潰す
(2)にんにく、しょうが、長ネギをみじん切りにする
(3)乾燥赤唐辛子の根元を切り、種を取り除く
(4)フライパンにサラダ油、にんにく、しょうが、乾燥赤唐辛子、すり潰していない花椒を入れ、弱火で加熱して香りを出す
(5)豚ひき肉を入れ、しっかり炒める
(6)チリパウダー、豆板醤、甜麺醤、オイスターソース、醤油、紹興酒を加え、さらに炒める
(7)木綿豆腐を小さ目に切って加え、ひと炒めしたら鶏ガラだしを加え2分煮込む
(8)水溶き片栗粉をかけ回し、ひと煮立ちさせたら皿に盛って、すり潰した花椒を振って完成!
辛さが欲しい場合には、皿に盛ってからラー油を加えて下さい。自家製ラー油の作り方は次のレシピを参照して下さい。
5-2.自家製ラー油
ラー油は簡単にできるのですが、手に入りやすいこともあって作った経験のある方は多くはないと思います。
ごま油と鷹の爪で作るものがシンプルですが、ここではより風味のある花椒などを追加したレシピをご紹介します。
材料:100ml
花椒 小さじ1/2 にんにく 1片 しょうが 1片 乾燥赤唐辛子 3本 ごま油 100ml |
(1)花椒をスパイスグラインダーですり潰す
(2)にんにく、しょうがをみじん切りにする
(3)乾燥赤唐辛子は種を取り除いて、はさみなどで細かく刻む
(4)フライパンにすべての材料を入れ、弱火で加熱する
(5)香りが出てきたら、一度中火にして温度が上がったらすぐに火を止め、そのまま冷ます
(6)瓶などに入れて、室温で保管する
(7)作ってから1日置いたら完成です!
5-3.辣子鶏(ラーズージー)
四川料理の中でも激辛料理として知られる辣子鶏。お隣の湖南料理としても有名です。
とにかく見た目が危険な料理ですが、実際に食べてみてもその辛さは強烈です。
ここでは少し控えめのレシピをご紹介します。これでも十分辛いのですが…
材料:3人分
花椒 大さじ1 鶏もも肉 2枚 にんにく 2片 しょうが 2片 乾燥赤唐辛子 10本 日本酒 大さじ1 醤油 大さじ1 みりん 小さじ2 サラダ油 大さじ2 |
(1)鶏もも肉を2~3センチ程度に細かく切る
(2)ジップロックに鶏もも肉、日本酒、醤油、みりんを入れ、よく揉んでから冷蔵庫で1時間置く
(3)にんにく、しょうがをみじん切りにする
(4)乾燥赤唐辛子は2つに切り、種を取り除く
(5)鍋に油(分量外)を入れ、弱火で鶏もも肉を5分~10分カリカリになるまで素揚げする
(6)フライパンにサラダ油、にんにく、しょうが、乾燥赤唐辛子を入れ、弱火で加熱する
(7)にんにくの香りがたってきたら、中火にして鶏もも肉を加えてひと炒めする
(8)花椒を加えて混ぜ合わせたら完成!
★レシピの裏ワザ★四川料理として出される場合、唐辛子や花椒の量が何倍にもなって盛り付けられます。また肉も骨付きの鶏もも肉を使いますので、よりしっかりした味が楽しめます。しかしながら、現地では肉よりも唐辛子のほうが多いくらいなので、唐辛子をかき分けながら肉をつまむ感じの料理です。蒸した暑い夏にはオススメの一品です!