地中海沿岸が原産地とされて、古くから世界各地でスパイスやハーブとして使われてきたフェンネル。
ローマあたりでは、どこにでも生えていたありふれた黄色い花が咲く野草で、貧富問わず手に入れることができたようです。
日本でいうと北から南までどこでも見られる山椒(サンショウ)みたいな存在でしょうか。
実はこのフェンネル、葉、茎、種と上から下まで余すところなく利用される、まさに「スパイスハーブ界の優等生」なのです!
古代から人々に愛されてきたフェンネルの魅力や特徴、そして料理に応用するためのレシピをたっぷりと紹介しましょう。
1.フェンネルの名前と歴史
フェンネルはセリ科の多年草で、成長すると高さが2メートルほどにまり、全体に黄色味がかった緑色をしています。
葉先が細かくふさふさに分かれ、夏になるとかわいい黄色い花をつけますが、フレッシュハーブとして使う葉は、その花が開く前に収穫をします。
そして秋には茎全体を刈り取って乾燥させ、種子を収穫します。種は6~7ミリ程度の長い楕円形で、二つの種が向かい合っています。
フェンネル(Fennel)は英語名ですが、これはラテン語で干し草を表す「Fenum」(フェノム)に由来すると考えられます。
確かに見た目でも茎の色が干し草に似てなくもないですね。また中国ではフェンネルのことを「茴香」(カイコウ)と呼びました。
これは見た目からではなく、魚の香りを回復することから名づけられました。これについては回復するのが、魚の香りなのか、それとも醤油の香りなのか、いろいろな説があるようです。
現在の日本では同じく「茴香」と書きますが、鎌倉時代などに流行した唐音にならってウイキョウと呼んでいます。
このフェンネルは、地中海沿岸の原産で、どこにでも生えている野草でした。その後古代ローマやエジプトで栽培が始まり、中国を経由して日本に伝わったという説が有力です。
日本では深江輔仁の「本草和名」(918年)に「和名 久礼乃於毛」(くれのおも、呉母)という名で登場しています。
当時はまだ平安時代ですが、フェンネルはこんなに古くから使われてきたのですね。日本では中世以降、漢名表記の「茴香」が使われるようになりました。
みなさんも良くご存じの俳人、松尾芭蕉が去来・凡兆と残した「市中は」の中にも、
「茴香の実を吹落す夕嵐」 去来
「僧ややさむく寺にかへるか」 凡兆
「さる引の猿と世を経る秋の月」 芭蕉
という流れがあり、ちょうど種子の収穫時期にあたる「茴香の実」が秋の季語として使われ、一般にも知られた植物であったことがうかがえます。
2.フェンネルの香りや味
フェンネルはスパイスとしてもハーブとしても知られています。夏に収穫されるフェンネルの葉は、強めの甘い香りがあり、魚料理などの風味づけとして使われます。
魚の臭みを消し、甘い香りで包み込むことから、魚料理のハーブとして用いられ、焼いても煮ても良く、添えものとしても使われることがあります。
またフェンネルの茎は、刻んでスープにつかったり、サラダにしたりと、こちらもいろいろな形で使われます。
さて、私たちが良く目にするフェンネルは、フェンネルシード、つまり種子ではないでしょうか。スパイスとしてスーパーでも良く見かけますね。
ホールやパウダーになっていますが、魚を調理する際に振りかけるだけで、魚臭さが無くなり、食欲をそそられるフェンネルの甘い香りが漂う料理になります。
話は変わりますが、インド料理店でレジ横などにカラフルなアメのようなものが置いてあるのを見たことがありますか?
あれは「ソーンフ」と呼ばれるもので、実はフェンネルをカラフルな砂糖でコーティングしたものです。
そもそもソーンフというのがヒンディー語でフェンネルのことで、インド料理店ではガムのようにお口直しとして置いてあるのです。
お口直しの他に、良くフェンネルが使われるものに漢方薬があります。具体的には、たとえば「大正漢方胃腸薬」という薬があります。
この薬の主成分は「安中散」という漢方薬ですが、それはウイキョウつまりはフェンネルや、ケイヒつまりはシナモンなどの混合粉末のことで、フェンネルもたっぷり使われているわけなのです。
3.フェンネルの育て方
ここではフェンネルの栽培方法をご紹介しましょう。今までフェンネルの育て方が分からなかった人も参考にしてみて下さい。
フェンネルは株のまわりに落ちたこぼれ種からもしっかり生育する丈夫なハーブです。ただし移植に弱いので、土に直まきするのがよいでしょう。その時に、コリアンダーやディルとは交雑しますので、近くに蒔かないように注意してください。
種まきは1ヵ所に4~5粒ずつ、50cm間隔で行います。ポリ鉢を使う場合は、10cm程度のポリ鉢に同じように4~5粒ずつ蒔きます。
土が乾燥しないように注意しながら、本葉が4枚になる前に間引きして1本仕立てにします。ポリ鉢の場合、苗が15cmくらいになったら、直播きと同じように50cm間隔で定植します。
フェンネルは根がまっすぐ伸びる特徴があり、根が傷みやすいため、苗の土は落とさずに畑の穴にそっと入れるように移植します。移植はかなり難易度が高いので、慎重にやるようにしましょう!
フェンネルの生育に適した温度は10~28℃で、冬場に霜にあたると地上部は枯れてしまいます。でも春にはまた発芽するので、そんなに心配する必要はありません。もし、枯れた場合は地上部を刈り取って春を待ちましょう。
肥料は冬季を除いて1ヶ月に1回のペースで与えて下さい。もし草丈が高く安定しない場合には、あまり放っておくと強風時などに倒れてしまうことがあるので、支柱を立ててヒモで軽く縛りつけておくといいでしょう。
このフェンネルはセリ科の植物ですが、実はこれを好む虫がいます。チョウやカメムシです。卵を産み付けられると、幼虫にあっという間に葉を食べられてしまうので、見つけたらすぐに摘まんで退治するようにしましょう!実は私の一番苦手な作業が、このアオムシの退治なのです…
4.フェンネルシードの作り方
夏の開花時期が終わると、花の基がだんだんと膨らんできます。種というとそのまま茶色くなるまで待つように思われがちですが、それだと少し乾燥しすぎてしまいますので、種に筋が入って黄色みがかってきたら花の束ごと折って収穫してしまいます。
そして取り込んだフェンネルの種に紙袋をかぶせ、逆さまに吊るしてして乾燥させます。
そのまま一週間もすると水分がなくなりスパイスとして使える状態になります。あとは湿気を避けるために、ビンなどで保存しましょう。
種を収穫せずに放っておくと、周囲の地面に落ちた種から発芽することがあります。この場合、後で移植が必要になったり、他の作物に影響があることがありますので、種は収穫してしまうことをおすすめします。
ここまで、種、種と言っていますが、実はあれは果実であって、種はその中身であるというのが正確な表現です。日本も海外も種、シードと呼んでますけどね。
5.フェンネルを使った料理レシピ
フェンネルは「魚のハーブ」と言われてきました。魚との相性の良さは歴史的に証明されているのです。
日本にも魚には醤油や味噌が使われてきました。同じように海外ではスパイスがその役割をはたしていたところがあるのです。ここでは、フェンネルの料理として、魚やお菓子、パスタをご紹介しましょう。
5-1.サーモンとフェンネルのオーブン焼き
まずは、フェンネルの茎(鱗茎、フィノッキオ)を使った料理を紹介します。鱗茎とはフェンネルの根元がカブのように膨らんだもので、フィノッキオとも呼ばれます。
フィノッキオはあまりみかけない食材だと思いますが、外国人向けのスーパーなどがあれば、もしかしたら手に入るかもしれません。
例えるとしたら、フェンネルの香りが漂う大きな玉ねぎと言ったところでしょうか。
材料:2人分
フェンネル(葉とフィノッキオ) 2個 生サーモン 2切れ レモン 1個 ミニトマト 6個 ブラックオリーブ 適量 イタリアンパセリ 適量 オリーブオイル 大さじ1 塩 適量 黒コショウ 適量 |
(1)フェンネルの茎から葉と根を切り落とす。フィノッキオ部分が残る
(2)フィノッキオを洗い、外側の固い皮をむき、薄い輪切りにする。太い芯が気になりますが、茹でれば柔らかくなるので、そのまま使う
(3)輪切りにしたフィノッキオを、塩を入れた湯で10分ほど煮る。柔らかく茹でられたらざるにとる
(4)耐熱皿にフィノッキオを敷き、その上に生サーモンを置き、塩少々と黒コショウを振って、ミニトマト、ブラックオリーブを加える
(5)オリーブオイルを加え、フェンネルの葉を何本か手でちぎって上に置く
(6)180℃に予熱したオーブンで、約10分焼く
(7)レモンの絞り汁を上からかけ、さらに約15分焼く
(8)イタリアンパセリを手で細かくちぎって振りかけて完成
5-2.フェンネルとオートミールのクッキー
フェンネルの甘い香りはお菓子にぴったり。
ここでは全粒粉とオートミールを使ったヘルシーなクッキーのレシピを紹介します。
材料:15-20枚分
フェンネルパウダー 小さじ1 全粒粉 大さじ1 ベーキングパウダー 小さじ1 ロールドオーツ 1 1/2カップ 卵 1個 塩 小さじ1/4 無塩バター 1/2 きび砂糖 2/3カップ |
1.ボウルにフェンネルパウダー、全粒粉、ベーキングパウダー、塩を入れ混ぜる(a)
2.フライパンにバターを入れ、弱火で溶かす
3.バターが溶けたら火を止め、ロールドオーツを加えて良く混ぜる(b)
4.別の大き目のボウルにきび砂糖と卵を加え、泡だて器でなめらかになるまで泡立てる(c)
5.(c)に(a)を加えて混ぜ、さらに(b)を加え混ぜる(d)
6.オーブン皿にクッキングシートを敷き、薄くバター(分量外)を塗る
7.(d)を好みの大きさの形にして、クッキングシートの上に並べる
8.オーブンを180℃で予熱する
9.オーブンの上段で8~10分ほど、程よいきつね色になるまで焼く
10.オーブンから出して、熱をとって完成
完成したら、なるべく早く召し上がって下さい。翌日になると味が変わってしまいます。
5-3.フェンネルのパスタ
フェンネルの葉はペーストを作っておくと、バジルなどの代わりに色々な料理に応用できます。
魚や肉にも使うことができますが、今回はフェンネルを使ったパスタを紹介します!
材料:2人分
フェンネル 適量(最初少な目に入れて、あとで調整することをおすすめします パルメザンチーズ 大さじ1 アンチョビソース 小さじ1/2 ニンニク 1かけ 乾燥赤唐辛子 1本 オリーブオイル 大さじ4 塩 小さじ1 パスタ 200g |
(1)ミキサーやフードプロセッサに乾燥赤唐辛子とパスタ以外の材料を全て入れて撹拌し、ペーストを作る
(2)味を確認して、必要であればフェンネルやアンチョビを追加する
(3)鍋に湯を沸かして塩を加え、パスタを硬めにゆでる
(4)別の鍋にペーストと乾燥赤唐辛子の輪切りを入れ、中火で熱する
(5)ペーストがぐつぐつしてきたら、茹でたパスタを加えてからめれば出来上がり!ぼそぼそしてペーストがからみにくいときは、追加でオリーブオイルをかけて下さい。
(6)残りのペーストは密閉容器に入れて、上にオリーブオイルで膜を作って冷蔵庫で保存する