マスタードと聞いて最初にどんな料理や食べ物を思い出しますか?
ケチャップとマスタードを好きなだけつけられるホットドッグという人や、マクドナルドでチキンナゲットにつけるマスタードソースを思い浮かべた人もいるでしょう。
少し年配の方になると、サンドイッチに塗ってあるからしマヨネーズやからしバターを思い浮かべる割合が多いかな?と思いますがどうでしょうか。
そんな私たちの記憶にしっかりと刻み込まれているマスタードを、今日は徹底解剖します。
1.マスタードの名前と歴史
マスタードは種子の状態では全く味も香りもしません。
ピリッとすらしないのです。
そんなマスタードを初めて調味料として使ったのがローマ人だと言われています。
マスタードをすりつぶしたものに、マスト(未発酵のぶどう果汁)を混ぜて、ムスツム・アルデンス、”mustum ardens”(燃えさかるぶどう果汁)を作ったのです。
ここから「マスタード」という名前が生まれました。
ローマ帝国のレシピ本「アピシウス」に、調味料のひとつとしてマスタードが書かれています。
この本は4世紀から5世紀頃に作られた本ですので、その頃には料理にも用いられていたのでしょう。
ローマはマスタード生産をビジネスとしていて、ガリヤ地方に輸出していました。
ただ10世紀頃になると、フランスのパリ郊外の修道院が製造を開始して、13世紀の終わり頃までにはパリの中心地でも生産が行われるようになっていたようです。
生産量の増大にともなってマスタードの人気も高まり、1336年にブルゴーニュ公が開いたあるパーティーでは、200リットル以上のマスタードが消費されたと記録されているほどでした。
何人いたのでしょうか。一晩の消費量ですよ、これ…
そのブルゴーニュ公国の首都ディジョンは、13世紀頃にはマスタードの生産地として知られるようになっていました。
現在ではディジョンマスタードの町としてブランドになっていますね!ブルゴーニュ公のバックアップがあったからこそ、ここまで発展したのでしょう。
さて、そんなマスタードがホットドッグに使われるようになったのはいつからでしょうか。
それは1904年のセントルイス万国博覧会だと言われていますが、その万国博覧会で、いわゆるホットドックにつけるフレンチマスタードが紹介されたのでした。
フレンチマスタードを紹介したのは、ハンバーガーチェーンなどでよく見かけるFrench’s社でした。
ホットドッグとマスタード、実はかなりピンポイントで特定された歴史だったのですね。
ところで、このマスタード日本にはいつ頃伝わったのでしょうか。
日本では芥子(からし)というものがありましたが、多くはからし菜を薬味として使ったものだったようです。
からし菜自体も原産地は海外ですので、輸入されたものでした。
古くは平安時代の「延喜式」(927年)に「からし」が登場していますが、おそらくはからし菜のことだったろうと考えられています。
種子を使った和からしが登場したのは、もっと時代が下ってのことだったのでしょうね。
江戸時代には、熊本でからし蓮根が作られるようになっていますので、遅くてもその頃にはある程度手に入りやすい調味料になっていたのでしょう。
2.マスタードの香りや味
一口にマスタードといっても、西洋のマスタードと日本のマスタード、つまりからしは性格が大きくことなります。
西洋のマスタードは、アブラナ科のシロガラシが原料で、ベンジルイソチオシアネートが辛みの元となっています。
この辛み成分は不揮発性であまりツンとくる香りがなく、マイルドな刺激をもっています。
一方の日本のマスタードは、同じアブラナ科のセイヨウカラシナが原料で、アリルイソチオシアネートが辛みの元となっています。
この辛み成分は揮発性でツンとした強い香りと、強い刺激をもっています。
ですから、西洋のマスタードは肉やソーセージなどにたっぷりと使い、日本のマスタードは、おでんやトンカツに少しだけつけて使うという違いが生じるのです。
同じマスタードですが、別物とおもったほうがいいでしょう。
3.マスタードの育て方
ここでは日本でも栽培されているマスタード(カラシナ)の育て方を学びたいと思います。
種まきは秋、9月から10月が基本です。種類によっては春と秋に種まきできるものもありますが、購入したタネの説明を良くみてみましょう。
まずプランターを用意します。サイズはどんなものでも構いません。
そして土ですが、基本的に酸性に弱い植物ですので、種まき前に石灰を混ぜておいてください。
プランターに土を入れ、プランターの大きさに合わせて横筋を何本か入れます。
筋にあわせて1~2センチ間隔で種をまき、軽く土をかぶせて抑えます。
本葉が5、6枚になったら、間引いて10センチ間隔程度にします。
もちろん間引いたカラシナは食べられますので、捨てないで下さいね!
今回の目標は種子ですから、越冬が必要です。
寒い地域では室内に取り込んだほうが良いでしょう。
屋外での栽培となる場合には、霜よけをしっかりしましょう。
翌年の4月ごろになると花を咲かせて、種子ができます。
種子をしっかり乾燥させれば、マスタードシードの出来上がりです!
4.スパイスとしてのマスタードの作り方
いつもですと、種子の状態までの作り方を書くコーナーなのですが、マスタードは種子の状態では全くスパイスとしての使い道はありません。
したがって今回は、種子ではなく、実際に調味料として使えるマスタードペーストの作り方をレシピ形式で書いてみたいと思います。
最初に紹介するのは、ホットドッグに合うようなアメリカのいわゆる「フレンチマスタード」です。
<材料>
水 1カップ ホワイトマスタードシード 3/4カップ 粗塩 小さじ3/4 ターメリック 小さじ1/2 ガーリックパウダー 少々 パプリカパウダー 少々 白ワインビネガー 1/2カップ |
(1)ステンレスの鍋に水、ホワイトマスタードシード、粗塩、ターメリック、ガーリック、パプリカを入れ、混ぜ合わせます。
(2)そして鍋を弱火にかけ、かき混ぜなから30~40分加熱します。
(3)白ワインビネガーを加え、適度なペーストになるまで10分前後さらに加熱します。
(4)火を止めマスタードを室温まで冷やします。
(5)タッパーや瓶などに移して、冷蔵庫で1週間ほど保管して完成です!
次に紹介するのは、「ディジョン風マスタード」です。
ディジョンマスタードはアメリカの「フレンチマスタード」に比べると大人のマスタードといった感じですが、白ワインを加えるところが特徴的です。
<材料>
ホワイト(ブラウン)マスタードシード 1/2カップ 辛口白ワイン 1/2カップ 白ワインビネガー 1/2カップ 粗塩 小さじ1/2 |
(1)マスタードシードを2日間、水に浸します
(2)材料をすべてステンレス鍋に入れて、混ぜ合わせてボウルや皿に移してラップをします
(3)室温で2日間置きます
(4)フードプロセッサーに移し、よく撹拌します
(5)タッパーや瓶などに移して、冷蔵庫で1週間ほど保管して完成です!
最後に紹介するのは、粒入りマスタードとか種入りマスタードといわれる本格マスタードです。
<材料>
ホワイトマスタードシード 大さじ1 ブラウンマスタードシード 大さじ1 白ワインビネガー 大さじ1 砂糖 小さじ1 塩 小さじ1 |
(1)ホワイトマスタードシードをスープ皿に入れ、白ワインビネガー(分量外)をひたひたに加えます。ひたひたを維持するように時々白ワインビネガーを足しながら、5日間室温におきます
(2)ホワイトマスタードシードを取り出し、フードプロセッサーで撹拌します
(3)ブラウンマスタードシードをミルなどで粉末にします
(4)ホワイトマスタードシードが入っているフードプロセッサーに、ブラウンマスタードシード、白ワインビネガー、砂糖、塩を加え、軽く撹拌します
(5)タッパーや瓶などに移して、冷蔵庫で数日保管して完成です!
自家製マスタードの作り方をいくつか紹介しましたが、どれも簡単にできるのでマスタードシードが手に入る方は是非トライしてみてください!
5.マスタードを使った料理レシピ
マスタードは使い道の多い調味料ですが、他のスパイスと違った、独特な使い方をしているレシピを紹介したいと思います。
ツンときたりこなかったり、マスタードの特徴を知ってマスタードを操りましょう!
5-1.サーモンのハニーマスタードソース
焼いたサーモンとマスタードの相性は抜群です。添えてもおいしいのですが、今回はハニーマスタードソースとしてサーモンにたっぷりと塗るレシピを紹介します。
材料:2人分
サーモン 2切れ にんにく 1片 種入りディジョンマスタード 大さじ1 はちみつ 小さじ1 りんご酢 小さじ1/2 フェンネルパウダー 適量 塩 適量 黒コショウ 適量 |
(1)生サーモンであれば塩を振っておく
(2)にんにくをみじん切りにし、マスタード、はちみつ、りんご酢、フェンネル、塩、黒コショウと混ぜ合わせる
(3)サーモンをパットに置き、混ぜ合わせたマスタードを塗る
(4)魚焼き機にアルミホイルを敷き、その上にサーモンを置いて、火が通るまで焼く
(5)皿に移して完成!
5-2.マスタード・ドレッシング
次はサラダに使えるマスタード・ドレッシングを紹介します。
フレンチ、イタリアン、和風といろいろなサラダドレッシングがありますが、マスタードを使うと一味違った風味が楽しめます。
材料:4人分
ニンニク 1片 バルサミコ酢 小さじ2 ディジョンマスタード 小さじ1 オリーブオイル 大さじ2 ドライパセリ 少々 塩コショウ 少々 |
(1)ニンニクを潰してから細かく刻みます
(2)ボウルにニンニク、バルサミコ酢、ディジョンマスタードを入れ、よく混ぜ合わせます
(3)オリーブオイルを加え、さらに混ぜ合わせます
(4)ドライパセリを加え、味を見ながら塩コショウで整えます
(5)これで完成ですが、お好みでディジョンマスタードの分量は調整して下さいね!
5-3.ラムのマスタードソース
最後はラム肉を使った派手に見えるレシピを紹介します。
ラムがあまり好きでないという人は多いと思うのですが、マスタードがあの臭みを抑え込んでくれますよ!
材料:4人分
ラム・リブ(8本) サラダ油 辛口白ワイン 50cc チキンストック 200cc 種入りマスタード 小さじ2 ザクロエキス 小さじ1 塩コショウ 適量 |
(1)オーブンを200℃に予熱し、ラムには塩コショウで下味をつけておきます
(2)鉄フライパンにサラダ油を熱し、ラムの脂肪を下にして焼き色をつけていきます
(3)ラムを一度取って、油を捨ててから再び戻して、横面を焼きます
(4)ラムをオーブンに入れて、15分ほど焼きます
(5)ラムをオーブンから取り出し、アルミホイルにくるんでおきます
(6)フライパンの余分な油を捨て、白ワインを入れて中火で数分加熱します
(7)ワインの分量が減ってきたら、マスタード、ザクロエキスを加え、中火で10分弱加熱します
(8)ラム肉を切り分けて、ソースとともに提供します