カルダモンは数あるスパイスの中でも、その独特の香りが一段と目立つスパイスです。
カルダモンの原産地インドでは、経済的な意味(高値で取引された)を含めて、昔からカルダモンは「スパイスの王様 the King of spices」とか「スパイスの女王様 the Queen of spices」などと呼ばれてきました。
一方で黒コショウもスパイスの王様と呼ばれているのですが、要するにこのカルダモンと黒コショウがスパイス界のツートップという訳なのです。
カルダモンは教科書で習わなかった気がしますし、黒コショウに比べるとかなり知名度が低いと思いますが、実はスパイス界の女王として君臨するカルダモン。その歴史や特徴を詳しくみていくことにしましょう。
1.カルダモンの名前と歴史
日本語での一般的な呼び名「カルダモン」は、英語のcardamon(cardamomとも書きます)の日本語読みです。これはラテン語のcardamomumから来ています。
このcardamomumはギリシャ語のkardamomonから来ていて、kardamomonはkardamonとamomonから成る言葉です。
一説によるとkardaは心臓を表すkardiaに由来していて、amomonは生薬を表すamoumumに由来すると言われています。いきなりカルダモンの本質を突くような語源ではありませんか。
ただし、どちらも植物由来ではないかという説もあり、特定するのは難しいようです。
カルダモンには大きく分けて2種類あって、一つはエレッタリア・カルダモマム(Elettaria Cardamomum)と呼ばれる「グリーン・カルダモン」です。この種はインドからマレーシア方面に分布しています。
グリーン・カルダモンは業界的には一番良いカルダモンであるとされていて、1センチ程度のさやに黒い種が10~20粒ほど入っています。
ホワイト・カルダモンもグリーン・カルダモンを漂白したものなので、同じ種です。
もう一つは、ブラック・カルダモン(もしくはブラウン・カルダモン)と呼ばれるもので、純粋なカルダモンとは異なる種類です。
こちらのさやは名前の通り黒や茶色をしていて、大きさも2センチ以上あります。表面がグリーン・カルダモンよりもザラついていて、その中に種が40~50個入っています。
このカルダモンは世界で最も古いスパイスの一つです。また、サフラン、バニラに続いて3番目に高価なスパイスとも言われています。
歴史的には紀元前1000年以上前から、インドではアーユルヴェーダに用いられていて、徐々にヨーロッパに持ち込まれました。ヨーロッパではその香りを活かしての口臭予防や、消化器系の薬、後で解説しますが解毒剤としても使われたようです。
ヨーロッパ以外の地域で、このカルダモンを愛用するのが遊牧民ベドウィンです。ベドウィンは移動式のテント生活を送っていますが、テントの入口は常に開けられています。いつでもウェルカムですよと客を歓迎するためです。
テントの中では客が来るとまずカルダモンの実を見せます。最上のカルダモンを使っていることを客に見てもらい、歓迎の心を知ってもらうのです。
そしてコーヒー豆を丁寧にローストしてから、太いオリーブの木でできた棒で潰し、カルダモンと共にポットに入れてボイルします。カルダモンも一緒に潰す方法もあり、家庭ごとに少しずつやり方は違うようです。
それをダラーと呼ばれる「魔法のポット」みたいなポットに移して、カップに注ぎ入れます。彼らのコーヒーにはミルクや砂糖は入れないそうです。
カルダモンはコーヒーに入れるとカフェインを中和すると言われますが、根拠は分かりません。ただ、コーヒーがまろやかにすっきりとした味になると、多くの人が感じるようです。
一方で、カルダモンを入れすぎると香りが強すぎて飲めたものではありません…
古代エジプトでもカルダモンは利用されていましたが、神殿では神にささげる香として焚かれました。このカルダモンの効能を語る上で、とても有名な逸話が残っています。
紀元前1世紀、黒海南岸に面した小国ポントスのミトリダテス6世は、日頃から毒殺を恐れて毒薬や解毒剤の研究を行っていました。
好戦的なミトリダテスは小アジア各地で戦闘を繰り返しますが、ついにローマとの最後の戦いに敗れたミトリダテスは、自ら命を絶とうとします。
ところが常用する解毒剤の効果のため服毒自殺に失敗、部下に殺させたそうです。
その後、このミトリダテスの解毒剤はローマ皇帝ネロの知るところとなり、やがて万能薬「テリアカ」として完成を見ることになりました。そのミトリダテスの解毒剤やテリアカの原材料としてグリーン・カルダモンが使われていたのです。実際の効果は、はたしていかほどだったのでしょうか。
日本では、小豆蒄(しょうずく)という名前がついています。日本にいつごろ入ってきたのかは分かりませんが、料理用ではなく生薬として入ってきたのではと考えられています。
2.カルダモンの香りや味
カルダモンは独特の強く爽やかな香りを持っています。
これは実際に嗅いで頂くのが一番ですが、日本人にとっては好き嫌いの分かれる香りかなと思います。
カルダモンの香りにはα-テルピネオールと1.8-シネオールという成分が含まれています。α-テルピネオールはライラックの様な香りを放ち、1.8-シネオールは樟脳(しょうのう)に似た香りを持っています。
カルダモンはショウガ科の植物ですが、他のショウガ科の植物は根を利用するものが多いのに対して、カルダモンは種子を利用するという違いがあります。またショウガと違って、辛みは感じますがショウガほど強くありません。
このように香りが特徴的なカルダモンは、スパイスとして利用されて、料理や菓子の香りづけや、カレーに用いられるガラムマサラの原料となっています。
カルダモンがスパイスとして使われる食品として、北欧のカルダモンパンが良く知られています。かつてのバイキングたちが持ち帰ったものなのでしょうか、フィンランドやスウェーデンでは、カルダモンを入れた菓子パンが伝統的に食べられています。
食べたことがない人は味が全く想像つかないと思いますが、いわゆる菓子パンなので、きつめの味ではありません。ほんのりと香りがある程度です。
3.カルダモンの育て方
カルダモンの育て方ということで、まじめに書いていこうとおもうのですが、実はこのスパイス、栽培難易度が最高ランクにあります。
日本でカルダモンを栽培するには、熱帯植物園のような現地の環境を再現したハウスを造らないと実がならないと言われていて、現実的にその可能性が高いと思います。
カルダモンは、海抜1000メートル前後の熱帯雨林地域で良く育つと言われています。
その環境を日本でどう再現するか。とても難しいですね…
そして何より日本ではカルダモンの株が出回っていません。どうやら種まきしか方法がなさそうですね。
と、覚悟を決めて、赤玉土と腐葉土6:4の用土を準備します。種をまいて、軽く土をかぶせます。
直射日光を避け、日差しの柔らかい半日影のような場所で20℃以上の温度を保ちます。
乾燥に弱いので、土が乾いたらたっぷりと水やりをします。
春~夏の成長期には固形肥料を置き肥します。
また鉢から根が出てきたら、大き目の鉢に植え替えをしましょう。
注意点としては、よくハダニが発生します。困りますね…これを防ぐ意味でも、まめに水分を吹きつけたり、葉が乾燥しない環境で育てましょう。
頑張れば…確率は低いですが、実がなるとカルダモンを収穫できます。ただし実をつけるまでは、最低でも3年はかかります。
まあ、カルダモンは最高ランクの難易度なので、失敗してもあまり気にしないことです。気長に…
4.スパイスとしてのカルダモンの作り方
カルダモンは茎の下のほうに花が咲き、実をつける植物です。葉の下側にもぐりこまないと実は見つけられません。その実はやがて熟して種子をつけます。
茎の根元のほうを良く観察して、実が緑色になったら収穫して乾燥させます。
シートの上で1週間程度乾燥させます。グリーン・カルダモンであれば、ここで完成です。
ホワイト・カルダモンは、収穫後、乾燥させるまえに漂白して白くしてから乾燥させます。
見た目がこちらのほうが好みだという人もいると思います。
5.カルダモンを使った料理レシピ
スパイスの女王様と言われるカルダモンは、様々な地域で料理やお菓子に活躍しています。今日はその中から、北欧系のレシピと、王道インドのレシピをご紹介します。
5-1.プッラ
北欧フィンランドでは定番の菓子パンです。
甘いだけのパンと違って、カルダモンが効いていておいしいですよ!
材料:20個~22個分
強力粉 200g 薄力粉 300g 無塩バター 80g 玉子 1個 牛乳 300cc ドライイースト 11g(1袋) 砂糖 100g 塩 小さじ1 カルダモンパウダー 小さじ1.5 フロストシュガー 適量 |
(1)カルダモン、砂糖、塩を混ぜ合わせる(a)
(2)牛乳をひと肌程度にあたためる
(3)牛乳にドライイーストを入れて溶かす
(4)(a)を加えて混ぜ合わせる
(5)大きめのボウルに移し、薄力粉と強力粉を混ぜたものを少量ずつ3分の1程度加える
(6)玉子(仕上げ用に少し残す)とバターを加えて、残りの粉も加えて手でよくこねる
(7)濡れ布巾をかけて2倍くらいに膨らむまで一次発酵する
(8)生地を20等分し、クッキングシートを引いたオーブン皿に乗せる
(9)また濡れ布巾をかけて、15分ほど置く。その間にオーブンを220℃で予熱する
(10)仕上げ用の溶き玉子を刷毛で塗り、オーブンで10分~15分焼く
(11)焼き色がついたらオーブンから出して冷ます
(12)少し冷めたところでフロストシュガーを振って完成!
5-2.ブルーベリーマフィン
カフェなどに行くと、ブルーベリーマフィンが置いてありますが、ここではカルダモンを使った北欧風ブルーベリーマフィンを紹介します。
材料:9個分
強力粉 100g 薄力粉 140g 冷凍ブルーベリー 80g カルダモンパウダー 小さじ1 (グリーン・カルダモン約15個をミルしてもよい) 無塩バター 100g 砂糖 200g 玉子 1個 ベーキングパウダー 小さじ1 重層 小さじ1 塩 小さじ1/2 牛乳 250ml レモン汁 大さじ1 塩 少々 |
(1)牛乳にレモン汁と塩ひとつまみを加えておく(a)
(2)強力粉と薄力粉を混ぜておく
(3)冷凍ブルーベリーに小麦粉を少量振って混ぜ合わせ、冷凍庫に戻しておく
(4)バターをなめらかになるまでフードプロセッサーでかき混ぜる
(5)砂糖と玉子を加えて、よく混ぜ合わせる(b)
(6)別なボウルに小麦粉をふるいにかけ、ベーキングパウダー、重層、カルダモンパウダーを加える(c)
(7)cにaとbを半分加え、良く混ぜ合わせ、さらに残りの半量を加えてよく混ぜ合わせる
(8)濡れ布巾をかけて30分ほど寝かせる
(9)オーブンを190℃で予熱する
(10)生地をマフィン型にスプーンで入れ、冷凍ブルーベリーをトッピングする
(11)オーブンで30分ほど色づくまで焼く
(12)焼きあがったら冷まして完成!
5-3.チキンとほうれん草のカレー
レシピの最後は、やはりカレーをあげないわけにはいきません。
ここではカルダモンを使った日本でも簡単にできるチキンとほうれん草のカレーを紹介します。
材料:4人分
ほうれん草 一束 鶏もも肉 400g 玉ねぎ 1個 トマト(カット、ダイス) 1缶 にんにく 1片 しょうが 適量 塩 小さじ2 カルダモンパウダー 小さじ1 クミン 小さじ2 ターメリック 小さじ2 クローブパウダー 適量 チリパウダー 大さじ1 |
(1)ほうれん草を茹で、少し冷ましてからフードプロセッサーでペーストにする
(2)玉ねぎを薄くスライス、鶏もも肉は一口大に切る
(3)フライパンに油を熱して、玉ねぎしょうがを入れ香りを出す
(4)鶏もも肉を入れ、焼き色がついてきたらトマトを加える
(5)塩、カルダモン、クミン、ターメリック、クローブ、チリを加えさらに炒める
(6)水をひたひたに加えて10分煮込む
(7)最後に塩、チリパウダーで味を調整して完成!
(8)ご飯でも美味しいですし、ナンを焼いてもいいですね。日本でのカレーの食べ方は自由です!
★レシピの裏ワザ★仕上げにお好みで無糖ヨーグルトを大さじ2ほど加えると、さらに味に深みがでます。またコリアンダーパウダーを小さじ1ほど加えると、日本のカレーに近い風味となってご飯によく合います!