アジョワンというスパイスは日本ではあまり知られておらず、世界的にみてもインド周辺の国以外ではマイナーな存在にとどまっていますが、そのインドではマイナーどころかどの家庭にもあるような「超メジャー・スパイス」だったりします。特に薬用として知られています。
アジョワンをかじってみると何となくマイナー感が漂ってりるのが分かると思いますが、かなり独特の香りと辛味を持っています。これを料理で使いこなすのも容易ではありません。
そんなアジョワンですが、その面白い名前からしていろいろ興味深かったりします。それではいろいろと掘り下げて学んでいきましょう。
1.アジョワンの名前と歴史
アジョワンはエジプト原産のスパイスであると考えられています。後でも解説しますが、そこからアラビアを通じてインドに伝わっていったと考えるのが正しいようです。現代では、イランや北西インドでの生産がさかんなスパイスです。
このアジョワンというスパイスですが、かつて一度も世界的に知られることが無かったために、歴史上の記述ですら、このアジョワンを指しているのか検証できないことが多いという状態です。
例えば大規模な荘園を作らせたカール大帝が、御料地令で記述したアジョワンというのが、現代のアジョワンであるとは必ずしも言い切れないのだそうです。
うーむ、アジョワンって、かなりマイナーで謎のスパイスだということは分かってきましたね…
さて視線をその名前に向けてみることにしましょう。アジョワンは英語で、AjwainとかAjwan、またはAjowanと書きます。日本だとAjowanが多いでしょうか。これらの英語はヒンディー語のAjvanが語源になっていて、そのまま英語に導入されたものと言われています。
そのヒンディー語の起源を辿ると、サンスクリット語のyavanakaが語源になっていて、このyavanakaは「ギリシャ」を意味するyavanaに由来するのだということが分かってきます。え?英語の語源がヒンディー語で、そのヒンディー語はギリシャを意味する言葉だったって?そうなのです。ですからアジョワンはインドが原産地では無いと推測できるのです。
このyavanaは、同じくギリシャを指すアラビア語のal-yunanやヘブライ語のyavanとは近縁の言葉で、それらは全てギリシャの民族イオニア人を意味する言葉です。ギリシャの東征に乗ってアジョワンがインドにもたらされたと考えるのはとても自然です。
またアジョワンには他の語源もあると言われていて、例えばインド南西部で使われるカンナダ語では、サンスクリット語のajamoda をそのまま使っています。またスリランカのシンハラ語では、別のサンスクリット語に由来するasamodagamという名前を使っているようです。インドでは他にもロヴァージュとかカロムとか呼ばれていたりします。これはさすがにバリエーションが多過ぎて混乱しますね…
でも他のスパイスをみても、別種と同じような名前がついていたり、反対に別種なのにごっちゃになっている場合もありますよね、例えばシナモンなどは、カシアやニッキと完全に一緒くたにされていましたよね!だからあまり気にしないほうが良さそうです。
ところがその呼び名の混乱とは裏腹に、このアジョワンはインドでは良く知られたスパイスであるのは驚きです。
実際、このアジョワンは薬用として、特に胃腸薬として家庭でよく用いられています。お腹が張っていたり、胃もたれしたりした場合には、水でアジョワンを飲む(一晩付けた水を飲んだり、水の中でスパイスを潰してみたりとやり方は多様)と良くなると言われています。
もう一つ薬用としての用途には、口中清涼剤としての利用があります。このアジョワンからは精油が採れ、殺菌効果が高いことで知られています。そのため口をゆすいだり、歯磨きにも使われてたりしているようです。
ただここまで見てきたように、世界的には知られたスパイスとは言い難く、実際に使われているのはインドとその周辺国に限られるようです。資料もとても乏しいスパイスです。
果たしてカール大帝が選定したのは、このアジョワンだったのでしょうか…
2.アジョワンの香りや味
アジョワンは、分類上はクミンやキャラウェイに近い植物なのですが、味はハーブのタイムに近いと言われています。化学的にもタイムに含まれるチモールという成分が、このアジョワンにも含まれているからそれは納得です。
しかし、私が最初にアジョワンの香りをかいだ印象は全く違いました。アジョワンの香りは、まさに湿布の匂いでした。タイムの香りの片りんもありません。(これは私だけなのでしょうか?)
レシピにも、よくタイムの代わりになるようなことが書かれているのを見ますが、あまりお勧めできません。アジョワンはタイムよりかなり風味がキツく、ものにもよりますが結構辛みがあるものもあります。使う場合は、事前によくテイスティングしてスパイスのコンディションを知ってから使ってみましょう。
3.アジョワンの育て方
これまでスパイスびとでは、すべてのスパイスについて育て方(栽培方法)を書いてきましたが、このアジョワンの難易度はその中では特Aクラスです。そうです、種や苗があまり売っていないからです。マイナースパイスの定めです…
幸運にも通販で苗を手に入れる以外には、スパイスとして売られている種(果実)を蒔いて、という方法しかありませんが、実際にそれで芽が出る保証はありません。
ただセリ科の植物ですから、フェンネルやディルなどと同じ方法で育てることができるでしょう。注意点としては、フェンネルやディルが近くにあると交雑しますので、なるべく距離を取って育てるようにしましょう。
参考:「フェンネルの育て方」
春になって暖かくなってきたら種まきをします。プランターなどに種まき用の土を使いましょう。たっぷり水を与え、置き肥をします。
なるべく夏の直射日光は避け、半日影のような場所で水分を切らさないように育てましょう。
夏に花が咲き、その実が種になりますので、茎ごと収穫します。そして風通しの良い乾燥したところに吊るしておきます。
4.アジョワンシードの作り方
収穫したアジョワンが完全に乾燥すると種がポロポロ落ちてきますので、そうなったら新聞紙などを敷いて上から叩いて種をふるい落とします。
簡単ですね、これでアジョワンシードの出来上がりです。
5.アジョワンを使った料理レシピ
ここまでアジョワンを詳しく見てきましたが、あまりレシピのイメージが湧かなかったかもしれません。
実際に料理に使われているのはインド周辺のみですから、必然的にご紹介するレシピもその地域のものとなります。
それでも、少し日本風にアレンジを試みていますが、アジョワンが上手く馴染んでくれるかどうか。。。
5-1.アジョワンのパラーター
パラーターはインドの家庭やレストランで焼かれている薄いパンです。ナンよりも薄く、生地には何かしらのバターやスパイスが練り込まれています。
ここではアジョワンを練り込んだパラーターを作ってみましょう!
材料:4~5枚
アジョワンシード 小さじ1 全粒粉 1カップ サラダ油 大さじ1 塩 ひとつまみ 水 80cc |
(1)ボウルに小麦粉、塩、サラダ油を入れて混ぜ合わせる
(2)ボウルに水を少しずつ加えながらこねる
(3)生地がまとまってきたら、濡れた布巾をかけて10分ベンチタイムを取る
(4)布巾を取り、生地を4~5個に分ける
(5)生地を手のひらでつぶし、棒で丸く伸ばす
(6)生地にアジョワンシードをパラパラと振りかけ、一緒に練り込む
(7)伸ばした生地の端を四方から織り込んで四角しながらまとめる
(8)フライパンにサラダ油(分量外)を熱し、生地を薄く焼き色がつくまで両面焼く
(9)両面きれいに焼けたら完成!
5-2.カリフラワーのアジョワン炒め
もし新鮮なカリフラワーが手に入ったら、このレシピを試してみましょう。
日本ではカリフラワーにしっかり火を通した料理が多いですが、海外では意外と生に近い状態で食べられている場合が多いです。
このレシピでは一応しっかり火を通していますが、加熱時間は少なくてもおいしく食べられます。
材料:2~3人分
アジョワンシード 小さじ1 カリフラワー 1株 ごま油 大さじ2 乾燥赤唐辛子 1本 ターメリック 小さじ1/2 岩塩 小さじ1 シソの葉 3枚 |
(1)カリフラワーを小房に分け、乾燥赤唐辛子は輪切りにする
(2)フライパンにごま油、アジョワンシード、乾燥赤唐辛子を入れ、弱火で熱して風味を出す
(3)カリフラワーを加え、中火で良く炒める
(4)ターメリックと塩を加え、さっと炒めてからフタをして3分蒸し焼きにする
(5)フタを取り、さらに3分ほど炒めて焼き色をつける
(6)シソの葉を加えてさっと混ぜ合わせたら完成!
5-3.アジョワン・キャベツ
スパイスびとでは、ニンニクを紹介した時に一度「アンチョビ・キャベツ」を取り上げました。
参考:「アンチョビ・キャベツ」
今回は、前回と違ってちょっと爽やかな風味のキャベツ炒めになります。是非トライしてみて下さい。
材料:2人分
アジョワン 小さじ1/2 キャベツ 1/4個 ニンニク 1片 オリーブオイル 大さじ2 塩こしょう 少々 ライムジュース 小さじ1 |
(1)キャベツをざく切りに、ニンニクをみじん切りにする
(2)フライパンにオリーブオイル、ニンニク、アジョワンを入れ、弱火で風味を出す
(3)キャベツを加えて、中火で少ししんなりするまで炒める
(4)塩こしょうを加えて良く混ぜる
(5)火から下ろし、ライムジュースを加えたら完成!
★レシピの裏ワザ★アジョワンの辛みがあるのでレシピでは唐辛子を使いませんでしたが、辛味を出したい場合には、乾燥赤唐辛子を1本輪切りにして、手順2から加えて下さい。