アニスというスパイスは、日本ではあまり知られていないようです。八角のスターアニスのほうは有名ですが、こちらのアニスの知名度は相当低いものがあります。
まあ日本でスパイスというと、辛いという意味にもなってしまいます。そこから連想されるのは、カレーやメキシコ料理に使うスパイス類ですよね。
このアニスはそのような辛いスパイスではありません。どちらかと言えば、それと反対のスイーツに向いているような甘い香りをまとったスパイスなのです。果たしてどのようなスパイスなのでしょうか?
1.アニスの名前と歴史
アニスは小アジア、ギリシャ、エジプトなどの地中海沿岸を原産地とするセリ科の一年草で、スパイスはその果実の部分を使用します。
このスパイスは、古くからよく知られていたスパイスでした。そしてアジアからもたらされる高価なスパイスに比べ、とてもありふれたスパイスでした。
そんな身近なスパイスだったアニスは、いろいろな書物にも記録が残っています。
紀元前2世紀頃の共和制ローマの政治家マルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウス(大カトー)は、その著作「農業論」の中でケーキの作り方を書いています。アニスなどの身近なスパイスを使った甘いケーキを宴会の後に食べることで消化を助け、体に良いというわけです。
このアニスを使ったケーキ。宴会とくに結婚パーティーの後に食べられたそうで、現代のウェディングケーキの起源だったのではないかとも言われています。元をたどれば、豪勢な食事をした後の別腹に収まるものではなくて、消化を助けるためのケーキだったのですね。ちょっと後付けの理由である気もしますが…
他の書物にもアニスは出てきます。古代ギリシャの植物学者テオプラストスの「植物誌」(紀元前300年頃)や、同じく古代ギリシャの植物学者ディオスコリデスが書いた「薬物誌」(1世紀後半)に記載があるほか、古代ローマ帝国では大プリニウスが書いた「博物誌」(77年)にも登場しています。主に薬草として、婦人病や整腸に用いられました。
実は旧約聖書の中にも十分の一税を払うものとして、アニスの名前は出てくるのですが、どうもその用語はディルと混同されたものである可能性が高いと言われています。
またアニスは古代エジプトのエーベルス・パピルスにも載っていて、ミイラを作る際の臭い消しに使われていたことが分かります。
このアニスの原産地は冒頭に説明した通りですが、古くから栽培もされてきました。古代のヨーロッパではイタリアのトスカーナ地方でアニスが栽培された記録が残っていて、そこから徐々に中央ヨーロッパへ広がっていったようです。もちろん例のカール大帝の荘園、いわゆる薬用植物園でも栽培されていました。
このように各地で栽培されるようになったアニスからは良質なオイルが採れます。このオイルは、虫よけや軟膏にして皮膚病に使われました。
またチーズに塗ると、最高のネズミ取り器の餌となったと言われています。
またこのアニスの強い香りは、養蜂家にも使われていて、このオイルの匂いをつけたものを置いておくと、自然と蜂が帰って来たと伝わっています。
さてこのスパイスの和名でもある「アニス」の名前は、英語のAniseを日本語読みしたものです。その英語のAniseは古フランス語のanisに由来し、anisはラテン語のanisumから来ています。ラテン語のanisumはギリシャ語のanisonに由来しますが、このanisonという語については、ディルとの混同があると考えられています。
2.アニスの香りや味
アニスのスパイスを食べると甘く爽やかな香りがしてきます。スッキリ系の胃腸薬の匂いにも似ていなくもないですが…
香りの主成分はアネトールで、フェンネルなどと同じ成分です。オイルにした場合は約90%がアネトールです。
日本ではアニスを使った料理やデザートはなかなかお目にかかりませんが、欧米ではケーキやビスケットに、アジアではシチューなどに用いられています。
アニスはリキュールの香りづけとしても使われます。例えば、ドイツのイエーガーマイスター、イタリアのサンブーカ、アラブ地方のアラックなど多くのリキュールに含まれます。
3.アニスの育て方
種まきは9月下旬の秋蒔きがおすすめです。大きめの鉢かプランターで育てます。
土は赤玉土に3割程度の腐葉土、そして緩効性の肥料を混ぜておきましょう。種を数個ずつ30センチ間隔で蒔き、さっと土をかぶせます。
2週間程度で発芽するので、しっかりした苗だけを残して間引きをしましょう。
日光を好むので、日当たりの良い場所で育てますが、土の表が乾いたら水をたっぷり与えて下さい。
開花時期は5月~6月です。
実は春蒔きもできるのですが、その場合は蒔いてすぐに開花してしまうのであまり大きく育たないという問題があります。しっかり育てたい場合には秋蒔きをおすすめしています。
4.アニスシードの作り方
果実が薄茶色になったら株ごと収穫して紙袋をかぶせ、日陰に吊るして乾燥させます。
しっかり乾燥したら果実を収穫します。
5.アニスを使った料理レシピ
アニスはスイーツに合うスパイスだと書きましたが、実際にそれらのレシピも見ていきましょう。
アニスの甘い香りがどのように活かされてくるのか楽しみですね。
今回はスイーツというかお菓子を2種類、メインディッシュを1種類ご紹介します。
5-1.アニス・ビスコッティ
2度焼いたという意味のビスコッティ。イタリアのトスカーナ地方の伝統菓子です。
名前の通り1回焼いて、切り分けてさらに焼くという2度焼きのお菓子で、硬く大きめのビスケットという感じでしょうか。
アニスを使ったビスコッティはどんな味になるのでしょう?
材料:10個~15個
アニスシード 小さじ1 強力粉 100g 砂糖 40g ベーキングパウダー 小さじ1/2 アーモンドダイス 適量 玉子 1個 バター 10g 粉砂糖 適量 |
(1)フライパンにアーモンドダイスを入れ、弱火~中火で香りがたつまで乾煎りする
(2)強力粉、砂糖、ベーキングパウダーをふるいにかけ、アニスシードと一緒にボウルに入れる
(3)玉子を溶いて、ボウルに加えて良く混ぜる
(4)さらにバターを加えて混ぜる
(5)生地にアーモンドを加えて、クッキングシートを敷いたオーブンの天板で整形する
(6)オーブンを170℃に予熱してから、20分ほど焼く
(7)いったん取り出して、1センチ強の幅でスライスする。スライスしたものを再び天板に並べ、更に10分焼く
(8)焦げないうちにひっくり返して、更に10分焼く
(9)こんがり焼けたらオーブンの火を止めてそのまま乾燥させる
(10)仕上げに粉砂糖をふるったら完成!
5-2.アニス・パウンドケーキ
次はアニスを使ったパウンドケーキです。パウンドケーキは馴染みがあると思いますが、日本にはこのようなスパイスフルなケーキがあまりないのが残念です
無ければ作っちゃえ!ということで、レシピをご紹介します。
食べる時には、これがローマ帝国で食べられたウェディングケーキなのか?などと想像しながら味わって下さい!
材料:1本分
アニスシード 小さじ1 バター 100g 砂糖 90g 小麦粉 100g 卵 2個 ベーキングパウダー 2.5g |
(1)小麦粉、ベーキングパウダーをふるいにかけておく
(2)バターを常温に戻してボウルに入れ、砂糖を加えながら良く混ぜる
(3)玉子を常温に戻してから溶き、ボウルに加えながら良く混ぜる
(4)1の小麦粉とベーキングパウダーを加えて、しっとりするまで良く混ぜる
(5)オーブンを170℃に予熱する
(6)パウンドケーキ型にクッキングシートを敷き、生地を流しこむ
(7)オーブンで約40分焼く。表面が焦げないように必要であればアルミホイルで覆う
(8)串で刺して、生地がつかなければ完成!
5-3.豚肉のスパイス焼き煮リンゴ添え
アニスが持つ甘い香りを活かして、煮リンゴを使った肉料理をご紹介します。
煮リンゴの甘味とアニスの香りが相まって食欲をそそられるレシピです。
材料:2人分
アニスシード 適量 豚肉ステーキ用 150g×2枚 塩コショウ 適量 オリーブオイル 大さじ1 玉ねぎ 1/2個 バター 10g ニンニク 1片 リンゴ 1/2個 砂糖 大さじ1 水 100g オレンジジュース 50ml 赤ワインビネガー 小さじ1 |
(1)小鍋にリンゴ、砂糖、水を入れ、中火で10分煮る
(2)弱火にしてさらに5分加熱して皿に取って冷ます
(3)豚肉の両面にアニスシードをまぶし、しっかりと塩コショウして30分置く
(4)フライパンにオリーブオイルを熱し、豚肉の両面を強火でしっかり焼く
(5)弱火にして豚肉に火が通るまで焼く
(6)玉ねぎを荒く切り、ニンニクをみじん切りにする
(7)鍋にバターを熱し、玉ねぎ、にんにくをさっと炒める
(8)リンゴを加えてリンゴに焼き目がつくまで焼く
(9)オレンジジュースを加えて、中火で1分加熱する
(10)豚肉と玉ねぎリンゴをフライパン、鍋からいったん取り出す
(11)鍋に残ったスープをフライパンに入れ、赤ワインビネガーを加えて煮詰める
(12)フライパンに豚肉、玉ねぎ、リンゴを入れ軽く混ぜ合わせたら完成!
★レシピの裏ワザ★豚肉にアニスをまぶしたレシピですが、もちろん他のスパイスやハーブを使っても構いません。また豚肉ではなく鶏肉でも美味しく食べることができます。煮リンゴが面倒な場合は、フルーツの缶詰を使うという奥の手もあります。